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高畑耕治
高畑耕治

2012年08月29日

杉山平一の詩。平明な言葉で、詩を。

 『日本の詩歌26 近代詩集』(中央公論社、1979年)を読んでいます。これまで出会う機会のなかった詩人の良い詩が心に響きだすのを感じるとき、私は嬉しくなります。

 今回は、杉山平一(すぎやまへいいち、1914年~2012年)の詩をみつめ感じとります。長く書き続けられた著名な方ですが、『近代詩集』の収録詩をいいと感じたので、詩歴の全体を通してでなく、収録作品に限定させて頂いてみつめます。

 この詩人は平明な言葉で詩を書きました。そこに意思の強さを私は感じます。簡単なようで難しいことです。

 新体詩は、文語定型詩古語や雅語を交える姿で始まりました。韻文としての音楽性を感じとりやすいことと、日常語とは異なる文学の言葉らしく、作品を創ることができるからです。
 やがて口語の定型的な詩が書かれ、続いて口語の自由律詩や散文詩が書かれ、今にいたっています。
 北原白秋の「行分け散文」という評価に特徴的に表されたように、口語の自由律詩や散文詩は、散文との境界がきわめて曖昧です。

 ですから散文ではないと明確に主張できるような詩を創ろうとするとき、日常語から区別されやすい、観念語や抽象語意味を棄てた字形と音だけの言葉などを組み上げ、詩らしく見せたいという誘惑を、言葉に意識的な、詩人と自称したい人ほど強く受けます。その動機を究めようとして最も「詩らしく」作られるのが狭い意味での「現代詩」です。

 私にもこの誘惑と散文作家ではないとの矜持は理解できるけれども、その歩む方向は文学の豊かさを失っていく袋小路です。虚しい独りよがりな飾り言葉を連ねて詩的に見せるのは安易な方法です。

 口語の自由律で、散文ではない、詩だと強く感じる作品を、詩人は創ることができます。杉山平一のように平明な言葉で詩を伝えることは難しいけれども、読み手にとっては心に詩がすっと沁み込んでくるような言葉を書くのが本当の詩人だと私は思います。

 彼の次の詩は、出来事だけを平明な言葉で綴っています。なのに読むと様々な感情や想いが湧きあがり心揺れます。これが詩です。

   よもぎ摘み
             杉山平一


戦争へ行つたまま四年になるのに
良人(をつと)はまだ帰つてゐなかつた

彼女はその日よもぎを摘みに出た
一番末の子をおんぶして

八つの姉妹と五つの子は家で
絵本を見て乏しい昼餉(ひるげ)を待つてゐた

よもぎは線路の近くに随分(ずゐぶん)あつた
彼女が時を忘れるほど

電車の音がしたとき
彼女が線路を避けたとき

そのとき彼女は足元に蛇を見た
思はずとびのき彼女の頭は電車にふれた

頭をくだいて彼女は死んだ
あたりの山に青葉噴(ふ)く五月のまひる。

 もう一篇の詩は、もっとストレートで、日常的な会話、語りかけのすぐ隣にあります。
 けれど、読むと目に情景を呼びさまし、肉声が聴こえ、想いの強さと高まりがあるから、心がゆれだし自然に共感してしまいます。これが詩です。

    はたらく娘たち
             杉山平一
   

はたらく娘たち
お前たちがゐると
職場をおほふざわめきも
調子のいいミシンのひびきのやうに
僕らの心の破れを縫ひあはせる
お前たち
明るく笑ってばかりゐるが
本当はその手提げのやうに疲れてゐる
僕は見たのだ
ある退屈な仕事場の少女が
いぢらしい独白にふけつてゐるのを
それが疲れを少しでもなほすのならば
娘たちよ
いくらでも夢みるがいい
僕もまた
お前たちのみんなに
やさしい良人がえらばれるやう
お前たちの母とともに
祈る

 今回は私の次の詩を木魂させます。
  詩「染まらないで」(高畑耕治詩集『愛(かな)』所収)。

 これで『近代詩集』を通した詩想は終了し、次回からは『日本の詩歌 現代詩集』を読みとっていく予定です。


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 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
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    Posted by 高畑耕治 at 06:00 │