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高畑耕治
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2012年05月25日

田川紀久雄詩集『かなしいから』2詩ってほんとはなんだろ?五

 標題のテーマ「詩って、ほんとはなんだろ?」について、詩人・田川紀久雄さんの詩集『かなしいから』(2005年9月、漉林書房)を感じとりながら考えています。後半の今回は、詩を歌とするものについての私の詩想です。

④ 言葉の音楽、歌であること。
 私は、詩歌が言葉の歌だということを意識して創作します。古代歌謡、和歌、歌物語から、詩や短歌へと受け渡されてきた、日本語の韻文学の旋律、調べを、息づかせようと、言葉の歌を紡ぎます。これらは詩人が創作するとき、言葉を選び、詩句、詩連を紡いでいるとき、意識的に、あるときは意識せずに、行なっていることです。

 「現代詩」は、これらの詩を言葉の歌、美しい響きとする要素を、意識的に排除するか、見失い忘れてしまい、散文化しています。私はこれらこそ、中原中也も同じように記していますが、詩が歌であるために不可欠な要素、詩の魅力を生むものだと考えています。

 詩集『かなしいから』の詩は、とても音楽的です。作者が朗読の経験を積み重ねることで培われた言葉の音に対する感性がみずみずしく奏でられています。言葉の音楽がどのように織り込められ歌となるか、作品から聴きとってみます。

   ☆リンク:詩「かなしいから」 (1連2連)

  かなしいから
  あなたのくるしみがわかる
  かなしいから
  あなたのさびしさもわかる
  かなしいから
  あなたのこころのあたたかさがわかる

  かなしいから
  わたしはすなおでいられる
  かなしさは
  わたしのたから

 ●1連の詩句の頭は「かなしいから」「あなたの・・・」、2連は「かなしいから」「わたし・・・」の反復。詩句の頭韻とも言えて、単音の頭韻に比べ、明瞭に心に残ります。
 ●1連の詩句の末尾は「から」「わかる」、2連は「から」が「たから」という詩語を音で呼びだしています。詩句の脚韻とも言えて、単音の頭韻に比べ、明瞭に心に残ります。
 頭韻、脚韻とも、日本語の母音はかすかな響きですが、詩語の反復とすることで音を強めることができます。
 ●この2連の主調音は、母音の「あ(a)」で、「かな(kana)しい」「あな(ana)た」「(わか)wakaる」「わた(wata)し」と、「あ(a)」の音が重韻のように重なり流れ、澄んだあたたかみを奏でています。その流れのなか「くるしみ」(u音とi音)、「さびしさ」(i音)、「こころ」(o音)、「すなお」(u音とo音)は、転調となり浮きだされ印象に残ります。

   ☆リンク詩「なみだとにじ」
   (1連と2連の詩句)

  かなしくて かなしくて
  かなしくて どうしようもないので
  ないた
  なみだがいっぱいでてきた

  なみだで かなしみはいくらか
  なぐさめられた
  かなしみはなみだとともに
  そらのかなたにきえた
  そらにはにじがでた

 ● 冒頭の「かなしくて」の3回の詩句の繰り返ししが心に強く残ります。
 ● 「かなしみ」「なみだ」「ないた」という言葉の意味の底流で、繰り返し畳み込まれる主調音の「な(na)」、(n)の音の濡れたニュアンス・音色が、この詩に染み渡り響いています。
 ● 詩行の頭韻「か」「な」「そ」も、言葉の歌である印象を強めています。
 ● 詩行の脚韻は「~(し)た」を主として、出来事を描写している作者の視線を、読者に感じ取らせています。

   詩「ゆうやけぞら」(2連)

  つきがのぼった
  みかずきのおつきさん
  こんばんは
  ほしさん
  こんばんは

 ●「おつきさん(san)」、「こん(kon)ばん(ban)は」、「ほしさん(san)」が、言葉の意味として童謡の調べの優しさを生み出すとともに(an)と(on)が音として快く木魂しあっています。

   詩「こどもたちのうたごえ」(1連2連)

  こどもたちのあそぶこえをきいていると
  なぜだかかなしくなってくる
  
  しらないばあさんいえにいた
  となりのばあさんしんじゃった
  ハイ ハイ ハイ
  さいしょがぐうー

 ● 2連は詩のなかへの歌声の挿入です。私もいくつかの作品で試みていますが、たとえば童謡を挿入すると子どもの肉声が聞こえてくるように感じられて効果が大きいと思います。私が好きな歌物語の伝統は、今も息づいていると思います。
 挿入歌には、リズム、調子の変化、転調をもたらすので表情が変わります。作品に重層的な深みをもたらす効果もあります。

   詩「こころのいろ」(1連2連)

  むすんでひらいたこころのいたみ
  いちどきずついたいたみはなおらない
  だれにもみえない
  ちいさないたみ

  ちいさいけれど
  おおぞらにうかぶにじのように
  いろんないろでできている
  ちのにじむようなあかいいろ
  きがくるいそうなみどりいろ
  ふあんでさびしいむらさきいろ

 ● 1連冒頭の「むすんでひらいたこころ」を読むと私には「むすんでひらいて」の童謡の歌詞が連想されて重なって聞こえてきます。本歌取りのような効果です。
 ● 1連は、「い(i)」の音の重韻、主調音として畳みこまれていて、「いたみ」を、細く尖った閉じられた音調でも表現しています。
 ● 2連の「ちのにじむようなあか」。常套句を現代詩は嫌いますが、生き残ってきた言葉であり比喩でもあるので強さと良さも持っています。使い方しだいだと考えています。
 ● 2連4、5、6行目の対句も、基本的な用法ですが、同じように詩歌発生時から使われ続け生き残ってきたのは、人は繰り返しながらの微妙な変化、変奏を、快く感じ好きだからです。
 常套句、慣用句や対句などの基本的な詩法を自ら使うのを禁じるのは、詩から音楽、歌を奪い、貧しくします。より豊かに美しく響く詩句、詩行を生み出していくほうがよいと私は思います。

    詩「さびしいこころ」6連

  かなしみのなかで
  いちばんかみさまのちかくにいられる
  こころからいのらずにはいられない
  このよからふこうがなくなることを
  ふこうがなくなれば
  わたしのいのちはいらない

 ● 3行目頭の「こころ(kokoro)」と4行目頭の「このよ(konoyo)」は母音「お(o)」で頭韻しています。 
 ● 2行目末「いられる」、3行目末「いられない」、6行目末「いらない」は、微妙に音を変奏させた脚韻になっています。

 以上のように、田川紀久雄さんの詩集『かなしいから』は、前回記した、平易な言葉で優しい意味を伝える詩であると同時に、言葉の音楽、言葉の歌、美しい日本語の旋律、調べを織りなしています。ですから、黙読するとき、音読するとき、朗読するとき、朗読を聞くとき、さまざまな姿で感性をゆりうごかし目覚めさせてくれます。それが、詩、詩歌という言葉による芸術の姿だと、私は思います。

 次回は崎本恵(神谷恵)さんの詩集『採人点景(さいとてんけい))を通して詩をみつめます。

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 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩のコラボをぜひご覧ください。

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    Posted by 高畑耕治 at 07:00 │