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高畑耕治
高畑耕治

2012年11月28日

山本かずこの詩。愛と性と美。裸身の問い。

 近代詩が生まれた明治時代からの約百年間に創られた女性の詩人の詩をみつめなおしています。
 『ラ・メール 39号、特集●20世紀女性詩選』(1993年1月、編集発行人:新川和江・吉原幸子、発売:思潮社)に採録されている詩人の一作品・一輪の花たちのなかから、私が好きな、木魂する思いを揺り起こされる詩について、詩想を記しています。

 今回の詩人は、山本かずこ(やまもと・かずこ、1952年昭和27年生まれ)です。
 略歴には、詩集『渡月橋まで』(1982年)『西片日記』(1983年)『最も美しい夏』(1984年)『愛の力』(1985年)『ストーリー』(1987年)『リバーサイドホテル』(1989年)『愛人』(1990年)『失楽園』(1991年)などと記されています。
 出会う機会のこれまでなかった詩人でしたが、これを見ただけでもこの詩人の旺盛な創作力と情熱、そして一貫する主題「愛と性と美」への拘りの強さが感じとれて、私は共感を覚えます。

 次の詩は、1992年の詩集『愛の行為』のタイトル作品です。詩の末尾の中期にあるとおり画家エゴン・シーレの同名の絵をモチーフに、詩の言葉の流れに、シーレの絵が浮かび沈み見え隠れする思いがします。(この絵はインターネットで検索して見ることもできます。彼の絵について、早大の絵画論の講義で坂崎乙郎が、シーレの絵、デッサンの曲線は本当の技術がないと生みだせない描けない線だと繰り返し強調していたことが心に焼きついています。)

 同名のシーレの絵の強いメッセージをこの詩ほど感じとらせてくれるものはない、逆にこの詩のメッセージをシーレの絵ほど感じとらせてくれるものはない、絵があり詩が呼び覚まされたという時間の順序には関係のない、絵と詩の木魂、呼び合うものを、強く私は感じました。まるで描かれている抱き交わり合う男女そのもののように。

 この詩が性の交わりという一般的には隠される恥じらいとされる行為を描き、快楽、という言葉も使っていながら、卑猥でも下劣でもなく美しいと感じさせずにいないのは、性と愛と生と死を切りはなせないもの、生きているということを露わに直視させるものと、感受性全体で受け止めているからです。

 神という言葉、死という言葉も、作品の中に浮くことなく、問いとして、織りなされています。なぜ生きているのか? なぜ愛さずにいられないのか? なぜ身体を求めあわずにはいられないのか?
 この問いの強さが、頭の中の論理のように干乾びたものではなく、生身の肉体の重みをたたえて創り上げられているのは、優れた女性の詩人だからこそだとも感じます。

 ここには女の眼、女の眼が見ている、男には畏怖をおぼえさせる、肉体の子宮の血の世界感覚があります。
 妊娠してもいい、という言葉の繰り返しの強さが、最終行のさらに強い死への思いへと凝縮し、いのちの裸の姿、人間を照らし出し浮かび上がらせていて、美しいと、私は感じます。


  愛の行為
              山本かずこ


 川のそばのホテルには 人の気配はなく 部屋があたたまるまで 私たちは洋服を着たまま抱きあっていた
 冬がくれば はっきりと見えることもあるのね 山のぜんたいのなかで たとえばじょうりょくじゅの位置など みどりはみどりのままだったわ
 好きという言葉以外にも きょうの私は じょうりょくじゅという言葉 みどりという言葉を発した
 だれもいないはずのホテルの部屋なのに あなたと私とを強くみつめている視線を感じる瞬間がある(神の視線といってもいいのかもしれない)
 愛の行為の最中に ふたりで同じ方向を(神の方向を)見ている(みつめかえしている)絵を思い出すこともあるのよ 覚醒した 意志をもった四つの眼球
 快楽のためになら
 (私は
 (きょう
 (妊娠してもいいと思っている
 はじらいもなく ともに裸であるということを さかのぼっていく 季節のはじまりが春だったとはかぎらないが 目を閉じれば 満開の 再びの 桜の季節につながっていてほしい けれど 快楽のためになら
 (私は
 (きょう
 (妊娠してもいいと思っている
 (私は
 (きょう
 (死んでもいいと思っている

   *「愛の行為」 エゴン・シーレの絵

 次回も女性の詩人の歌声に、心の耳を澄ませます。

 ☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
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    Posted by 高畑耕治 at 06:05 │