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高畑耕治
高畑耕治

2012年12月26日

田川紀久雄の詩(一)。苦しみを食べてあげたい。

 今回と次回は、私も参加させて頂いている詩誌『たぶの木』を発行してくださっている詩人・田川紀久雄さんが今年11月にだされた新しい詩集『愛するものへ』(漉林書房)から、私が好きな詩を2篇みつめます。
 表紙は画家でもあるご自身の絵「良寛さんと子供たち」(油彩10号)の優しく淡いあおで彩られた野の花のような本です。

 あとがきに書かれていらっしゃるように、この本からは詩集という言葉がはずされています。創作とは、作者にとって書かずにはいられない、伝えたい想いの源の受精卵から生れますが、その想いがどのような顔をして生れているかは、誕生の瞬間までわからない、とても繊細で微妙なものです。

 「現代詩」には、<コノヨウナモノデアラネバシジャナイ>というような権威による暗黙の呪文のような決め付け、流行に過ぎない枠組みの押し付けがはびこり、その型に合せて並べられた言葉は、凝り固まった思考には受けの良い、点数をつけやすい形なのかもしれませんが、詩情は損なわれ失われています。
 詩歌の源にある憧れやときめきや驚きや思慕や哀しみに根付いていない、知性と機智に偏向した言語実験は一見難しそうで立派そうでも、とても窮屈で窒息しそうで読まなければよかったと後味の悪さばかり残ります。作者の心から新しい顔で気ままに生れ出る詩の息吹き、言葉だけが表せる自由がありません。
 私は詩歌を、自由な詩を生み出し伝え続けたいと強く願いますが、その作品が「現代詩でない」と言われようがどうでもよいと思っています。
 詩は人の心の豊かさのままに多様なほど良いのだし知性の光る作品も一つの顔としてまた良いけれど、他を認めない、心を封印した「現代詩」の偏狭さは有害だと考えています。

 横道にそれましたが、田川さんから生れた私の好きな詩「癒されない哀しみ」には、たとえば次のようなとても驚いてしまう心と言葉が生きていて、見つけた喜びがあります。
 「あなたの苦しみを食べてあげたい」
 心の声に耳を澄まし、感性を大切に開いて、詩の泉を心に沁み込ませたいからこそ、詩が好きな読者には、きっとわかると私は思います。
 このような詩句は頭でひねってより巧みにみせようとしてこしらえられるような瓦礫ではありません。詩句とは、作者自身にとっても、読者にとっても、心にささり忘れられなくなる、こういう言葉だと、私は思います。


  癒されない哀しみ
             田川紀久雄


愛するものが哀しんでいるとき
私の心も哀しい
哀しみはそう簡単には拭いさることはできない
ただじっと見つめているしか出来ないときもある
でも愛するものよ
あなたの傍に寄り添っている人のことを思い出して欲しい
あらゆる生き物は存在の哀しみを背負い込んでいる
それは自分の心の弱さからくることもある
でもその弱さを自然に受け入れるしかない
逃げることが出来ないのなら
まるごと受け入れるしかない
あるがままに生きることも必要ではないのだろうか

愛するものが哀しんでいるとき
一番つらいのは
その人を愛しているものなのだ
どうすることもできない
愛するものの苦しみが
竜巻のように襲いかかってくる
人間存在そのものの弱さに打ちのめされてしまう

愛するものが哀しんでいるとき
あなたの苦しみを食べてあげたい
それができない
あなたの苦しみや哀しみは
あなただけのものだから
ただあなたの哀しみを聴いてやることしかできない

愛ってなんなのだろう
幸せなときは
愛も幸せでいられる
悲しい時は
愛も哀しくなる
愛ってなんなのだろう
どうすることもできない
心の愛は
しゃぼん玉のように空に舞い上がって消えていく
光はそのしゃぼん玉を虹色に変えていく
一瞬の美しいものがたり
           (二〇一二年二月十八日)

 次回もこの詩集から1篇の詩を見つめます。

 ☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

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    Posted by 高畑耕治 at 21:34 │