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高畑耕治
高畑耕治

2013年02月19日

上田三四二の短歌(三)意味とイメージと音色とリズムは溶けて。

 ここ約百年に生まれた短歌を見つめています。『現代の短歌』で出会えた、私なりに強く感じるものがあり何かしら伝えたいと願う歌人の、特に好きな歌です。
 前回に続き、上田三四二(うえだ・みよじ、1923年・大正12年、兵庫県生まれ)の短歌をとおして、日本語の言葉の音楽、歌に耳を澄ませます。

今回は音楽性ゆたかな歌五首です。それぞれの歌に感じたことを記していきます。短歌の前に、所収の歌集名、刊行年と彼の年齢を記しています。

               『雉』1967年(昭和42年)、44歳。
あたらしきよろこびのごと光さし根方明るし冬の林は

*この歌の魅力は、「あたらしAtArA・SHI」「ひかりさしhIkArIsA・SHI」「あかるしAkAruSHI」「はやしhAyA・SHI」の、母音アAの明るい音色と、「しSHI」の組み合わせの、繰り返しが生むリズム感にあります。
*言葉の意味・イメージ・詩想の「よろこび」「光」「明るし」と、母音アAの開かれた音色があっていることで、歌の世界が心にひろがります。言葉の意味・イメージ・詩想と音色とリズムが、わからないほど溶け合って高めあうほど、歌は美しい調べとなるのだと思います。

               『湧井』1975年(昭和50年)、52歳。
術後の身浮くごとく朝(あした)の庭にたつ生きてあぢさゐの花にあひにし

*冒頭部は「術後の身浮くごとくjUtsUgonomiUkUgotokU」意味も音も閉じられたU音が、子音gと絡まり主調になっています。
*「朝」から意味も音も大きく転調します。
*AshItAnonIwAnItAtsu IkIteAzIsAIno hAnAnIAhInIshI  アA音の開かれた明るい音色が、「朝」「たつ」「あぢさゐの花」「あひ」という前向き肯定的明るい意味を仮名で、子音イI音と交互に交わり、弾むリズム感を生みだしています。意味と音色・リズムが溶け合う、美しい歌です。

おぼろ夜とわれはおもひきあたたかきうつしみ抱けばうつしみの香や

*上句は、「ObOrOyOtO warewaOmOiki」と、母音オOの音が主調で「夜」イメージとよく溶けています。
*下句では、「うつしみ」と4文字の音を重ねて繰り返し強く言葉の意味と音が心に残ります。
*全体の流れに浮かび出る、母音アAの音「われwAre」「あたたかきAtAtAkAki」「抱けばdAkebA」「香やkAyA」が、流れに整ったリズムを醸し出しています。

白木蓮(はくれん)のひと木こぞりて花咲くは去年(こぞ)のごとくにて去年よりかなし

*「こぞKOZO」の音を三回繰り返しリズムを生み、下句では意味の上でも「去年」を強め心に焼きつけます。
*上句は、「白Haku」「ひと木Hitoki」「Hana」の子音H音が植物のはかなさのイメージと合い溶けています。
*全体の流れに、「haKu」「hitoKi」「Kozorite」「saKu」「Kozo」「GotoKu」「Kozo」「Kanashi」と、子音KとGが繰り返し浮かび出てリズム感を支えています。

               『遊行』1982年(昭和57年)、59歳。
吹く風に枯葉ちりつぐ藤棚のうへに欠(か)けゆくふゆ望(もち)の月」

*「ふFU」と「ゆYU」のはかなげや柔らかい音、母音Uが主調となり、「吹くFUkU」「つぐtsUgU」「藤Fuji」「うへUe」「ゆくyUkU」「ふゆfUyU」と、意味、イメージと溶け合っています。
*「ちりつぐchiritsUGU」と「欠けゆくUKU」は弱い脚韻のような効果でリズム感を支えます。
*最終の言葉は心に留まりやすいですが、この歌も「ふゆ望の月」という言葉、冬の満月の意味とイメージと、
「FUYUMOCHINOTSUKI」という音色とリズム感だけでも美しく感じらます。
*「枯葉ちりつぐ藤棚」ということは、冬で花はもう枯れていてここにはありませんが、歌の中では「藤FUJI」という音に、藤の花の美しいイメージが呼び起こされます。ないものをあるかのようにイメージとして呼び起こすのは特に新古今和歌集藤原定家中心に見出された優れた象徴表現です。
萩原朔太郎も新古今和歌集はフランス象徴詩に先んじているといい、私もそう思います。
 フランス象徴詩でもマラルメは詩論で音とイメージについて語っていることを、以前ブログに書きましたマラルメの詩論(二)美しい姿がおぼろげに。」)。
*「欠けゆく」という言葉もはかなさを強めています。日本語の「ゆく」は、「行く」と「逝く」を吹く見合わせて響くので「亡くなる」イメージが沁み込みます。
*冬の満月とないけれどもおぼろにうかびゆれる藤の花のイメージが溶け合う美しい象徴詩です。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)

 次回も、上田三四二の言葉の音楽を聴き取ります。


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    Posted by 高畑耕治 at 00:05 │