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高畑耕治
高畑耕治

2013年03月07日

斎藤史の短歌。眼に見えぬものを、歌う人。

 ここ百年ほどの時間に歌われた詩歌から、短歌の形で咲いた心の花をみつめています。
今回の歌人は斎藤史(さいとう・ふみ、1909年・明治42年東京生まれ、2002年・平成14年没)です。

 好きな歌10首を選びました。
一首目は、歌において、イメージの鮮明さもまた大きな魅力であることを思い出させてくれます。三十一文字と言う限られた字数でありながら、伝えられるものは限りなくひろがっていること。この歌は、雪の山のずっと奥ふかくまで、またウサギと重なる白い色彩そのものの無限のひろがり、見開かれた眼をとおして、このうさぎの眼に映しだされてきた世界、そして死の世界までへも、その入り口としてこの歌があります。

 二、三、四首目の歌は、この歌人が、表面的には眼に見えないけれど、たしかにあると感じられる密やかなものに、想いを馳せ、美しく歌う人であることを教えてくれます。
 五、六首目の歌も、死もまたそのように見えないけれども生に寄り添うようにある、よりおおきな拡がりとして感じ取られ、歌われています。

 最後の4首は、年老いた女性として、内省する静かな歌ですが、諦念とさびしさの想いに梳かされるかのように、逆に今はもうないもの、失われてしまったもの、若い女の華やぎ、婚姻の楽しさ、恋のうたが、想いの強さのままに浮き出されているように感じます。

 どの歌も想いが静かに流れる言葉の調べが美しく、心に響いてきます。

          『うたのゆくへ』1953年・昭和28年
白きうさぎ雪の山より出でて来て殺されたれば眼を開き居り
しなやかに熱きからだのけだものを我の中に馴らすかなしみふかき
花が水がいつせいにふるへる時間なり眼に見えぬものを歌ひたまへな

『ひたくれなゐ』1976年・昭和51年
雪が沁むかぎりなく沁むみづうみのその内奥の暗緑世界
おいとまをいただきますと戸をしめて出てゆくやうにゆかぬなり生は
死の側(がは)より照明(てら)せばことにかがやきてひたくれなゐの生(せい)ならずやも

          『秋天瑠璃』1993年・平成5年
言葉使はぬひとり居つづく夕まぐれもの取落し<あ>と言ひにけり
戀のうた我には無くて 短歌とふ艶(えん)なる衣まとひそめしが
老いたりとて女は女 夏すだれ そよろと風のごとく訪ひませ
婚姻色の魚らきほひてさかのぼる 物語のたのしきはそのあたりまで

出典:『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)。
 次回も、歌人の心の歌の愛(かな)しい響きに耳を澄ませます。


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    Posted by 高畑耕治 at 00:05 │