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高畑耕治
高畑耕治

2013年04月10日

窪田章一郎。佐藤佐太郎。歌の花(十一)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。
出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

■ 窪田章一郎(くぼた・しょういちろう、1908年・明治41年東京市生まれ)。

父のなき今年の大学受験生多くはいくさに父をうしなふ  ◆『六月の海』1955年・昭和30年

◎この一首は事実をありのままに短く述べた歌です。戦争というものが、戦時だけでなく、戦後に及ぼし続ける災禍の大きさを浮かび上がらせます。初句に「父のなき」、末句に「父をうしなふ」と繰り返し対比させ、「いくさに」の一言を強めていることに、歌人の意思を私は感じます。

弱者なるおもひに徹する人間の生きて積みゆく仕事を信ぜむ  『硝子戸の外』1965~71年・昭和40~46年

◎この一首にも、謙虚で静かな言葉のうちに、歌人の芯のある強い意思が響き、美しいと感じます。大言壮語とは対極にある述志の歌に私は共感します。

手をのべてわが手とらしぬ今に知る末期(まつご)の別れしたまひしなり

◎末期の別れの歌。この歌には第2句の後半から母音イI音が基調に底流し、息の細い緊張感を奏でます。特に4回表れる「しSHI」音には、私には「死」が重なり聴こえます。「とらしぬ今に知るtoraSHInu ImanISHIru」最終句はその緊張の高まり「したまひしなりSHItamahISHInari」、絶句し、無音、沈黙が読後に拡がります。

ちちははに受けにし愛をながき生(よ)に人にわかちて實らせにけむ

◎故人への尊敬の想いが美しく湛えられた歌。私もまたそのようにありたい、という心がふるえて聴こえてくるようです。愛を受けわかちつないでゆきたいという祈りにちかい願いが込められているから、あたたかいと感じます。


■ 佐藤佐太郎(さとう・さたろう、1909年・明治42年宮城県生まれ、1987年・昭和62年没)。

なでしこの透きとほりたる紅(くれなゐ)が日の照る庭にみえて悲しも  『立房』1947年・昭和22年

◎とても静かで素直な歌です。なでしこの淡い色を、「透きとほりたる紅」と美しい詩句としたとき、立ちのぼる言葉の花の表象は「悲しも」そのものとして美しくふるえています。

みるかぎり起伏をもちて善悪の彼方の砂漠ゆふぐれてゆく  『冬木』1966年・昭和41年

◎この歌は、はるかさの心象と情景が溶け合い響いていると思います。人間の価値判断はちっぽけなもので、そんなものに関係なくもっと遥かなものはどこまでもいつまでもある、そんな声が聴こえる気がします。

杖ひきて日々遊歩道ゆきし人このごろ見ずと何時(いつ)人は言ふ  ◆『星宿』1973年・昭和58年 

◎間もなくやってくるだろう死を想うさびしい歌ですが、ありのままの想いの強さが素直な言葉に沁みこんでいるように感じます。

その枝に花あふれ咲く雪柳日々来るわれは花をまぶしむ ◆

◎これも素直すぎるほどの歌ですが、快く情景が鮮やかに浮かび感じられるのは、音調と溶け合っているからだと感じます。基調音は、開口の明るい母音アA音です。「花あふれ咲く雪柳 hAnAAfuresAkuyukiyAnAgi」「われは花をまぶしむwArewAhAnAwomAbushimu」子音と織り成されかくれながら、花のまぶしさを言葉の音楽で奏でています。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

次回も、美しい歌の花をみつめます。


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    Posted by 高畑耕治 at 00:05 │