2013年05月24日
高野公彦。黒木三千代。歌の花(三三)。
出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。
出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。
■ 高野公彦(たかの・きみひこ、1941年・昭和16年愛媛県生まれ)。
緑陰に覚めしみどりごああといふはじめのことば得てああと言ふ ◆『淡青』1982年・昭和57年
◎幼子がはじめて覚えて発する言葉は「ああ」だという、新鮮な感受の歌です。「ああといふ」を二回繰り返すことで、波のように心に打ち寄せます。最初の「いふ」はひらがなで弱く出来事をそのまま受けとめた感じを、二回目は漢字で「言ふ」とすることで詩句「はじめのことばを得て」を逆照射して強めつなげ、「覚えた言葉を自発的に初めて発した」という意味を込め、響かせています。
悲しみを書きてくるめし紙きれが夜ふけ花のごと開きをるなり 『水木』1984年・昭和59年
◎映像が心に映し出される歌。「悲しみ」「書きて」「紙きれ」は「かKA」音が頭韻しています。「花のごとく」とせずに、「花のごと」と止めた後に余韻が生まれ、その無音が「静かにふっと」という意味を感じさせて「開きをる」姿の美しさを強めています。
妻子(つまこ)率(ゐ)て公孫樹のもみぢ仰ぐかな過去世・来世にこの家族無く 『雨月』1988年・昭和63年
◎イチョウの黄金が「過去世」「来世」にはさまれた今この時を強め意識させます。情景と詩想が美しく溶けあって心に響きます。
暗黒を揺籃(えうらん)として育ちたるかなかなのこゑ澄めり日のくれ ◆『水苑』2000年・平成12年
◎「暗黒」という詩句の強さが、土の中での長い時間と、地上で鳴くかなかなの声の「澄めり」という詩句の輝きをより際立たせています。最後の詩句「日のくれ」には、実際の夕方の時間と同時に、短いいのちの最後の時間という、二つの意味が込められ、澄んだ鳴き声の愛(かな)しみを強めています。
人間が支離滅裂に荒らす皮膚 皮膚ほろぶとも地球ほろびず ◆
◎観念的な歌ですが空疎な主張ではないと感じるのは、自分もそのひとりである人間の行いへの怒りと悲しみと反省の意識のうえで、詩句「地球ほろびず」に強い願いを込めて歌っているのが、伝わってくるからだと思います。
● 黒木三千代(くろき・みちよ、1942年・昭和17年大阪生まれ)。
さうたうに軌道はづるる生き方もしてみよみよと三月の猫 『貴妃(きひ)の脂(あぶら)』1989年・平成元年
◎この歌人はおかしみ、ユーモアを真骨頂とするようです。して「みよ」と猫の鳴き声「みよみよ」を掛けています。
ダジャレと感じないのは、そこまでの詩句に意思の真率さが歌われているからで、その生真面目さをやわらげています。
老いぼけなば色情狂になりてやらむもはや素直に生きてやらむ
◎この歌も機智が勝っていますが、前半のどぎづいとも言える詩句を、後半の「もはや素直に生きて」という思いに込められた真実な詩句で、ひっくりかえしているからです。そっちこそ本当じゃないだろうか、と考えさせる力があります。
アーモンド色の少女とすれちがふ街路みづのやうなる挽夏光
◎映像的な色彩感のある感性が響く歌。「アーモンド色」と「みづのやうなる」が鮮やかなイメージを呼び覚ます美しい歌です。
死にたらば同じ蓮(はちす)に住まうと言ふ改宗をして死なうと思ふ
◎この歌も機智が勝ったおかしみの歌ですが、いやらしさを感じないのは、ここにも「死んでまで夫婦一緒は嫌だ」という思いもあることを突く、鋭さがあるからです。
当然のこととされがちな建て前を暴き引っくり返すように、「本当はどうだろう?」と問う鋭い批評眼を持ちつつ、ユーモアとおかしさを溶け込ませて歌とする、個性の際立つ歌人だと感じます。
出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)から。
次回も、美しい歌の花をみつめます。
☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日、イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
こだまのこだま 動画
☆ 全国の書店でご注文頂けます(書店のネット注文でも扱われています)。
☆ Amazonでのネット注文がこちらからできます。
詩集 こころうた こころ絵ほん
☆ キズナバコでのネット注文がこちらからできます。
詩集 こころうた こころ絵ほん
出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。
■ 高野公彦(たかの・きみひこ、1941年・昭和16年愛媛県生まれ)。
緑陰に覚めしみどりごああといふはじめのことば得てああと言ふ ◆『淡青』1982年・昭和57年
◎幼子がはじめて覚えて発する言葉は「ああ」だという、新鮮な感受の歌です。「ああといふ」を二回繰り返すことで、波のように心に打ち寄せます。最初の「いふ」はひらがなで弱く出来事をそのまま受けとめた感じを、二回目は漢字で「言ふ」とすることで詩句「はじめのことばを得て」を逆照射して強めつなげ、「覚えた言葉を自発的に初めて発した」という意味を込め、響かせています。
悲しみを書きてくるめし紙きれが夜ふけ花のごと開きをるなり 『水木』1984年・昭和59年
◎映像が心に映し出される歌。「悲しみ」「書きて」「紙きれ」は「かKA」音が頭韻しています。「花のごとく」とせずに、「花のごと」と止めた後に余韻が生まれ、その無音が「静かにふっと」という意味を感じさせて「開きをる」姿の美しさを強めています。
妻子(つまこ)率(ゐ)て公孫樹のもみぢ仰ぐかな過去世・来世にこの家族無く 『雨月』1988年・昭和63年
◎イチョウの黄金が「過去世」「来世」にはさまれた今この時を強め意識させます。情景と詩想が美しく溶けあって心に響きます。
暗黒を揺籃(えうらん)として育ちたるかなかなのこゑ澄めり日のくれ ◆『水苑』2000年・平成12年
◎「暗黒」という詩句の強さが、土の中での長い時間と、地上で鳴くかなかなの声の「澄めり」という詩句の輝きをより際立たせています。最後の詩句「日のくれ」には、実際の夕方の時間と同時に、短いいのちの最後の時間という、二つの意味が込められ、澄んだ鳴き声の愛(かな)しみを強めています。
人間が支離滅裂に荒らす皮膚 皮膚ほろぶとも地球ほろびず ◆
◎観念的な歌ですが空疎な主張ではないと感じるのは、自分もそのひとりである人間の行いへの怒りと悲しみと反省の意識のうえで、詩句「地球ほろびず」に強い願いを込めて歌っているのが、伝わってくるからだと思います。
● 黒木三千代(くろき・みちよ、1942年・昭和17年大阪生まれ)。
さうたうに軌道はづるる生き方もしてみよみよと三月の猫 『貴妃(きひ)の脂(あぶら)』1989年・平成元年
◎この歌人はおかしみ、ユーモアを真骨頂とするようです。して「みよ」と猫の鳴き声「みよみよ」を掛けています。
ダジャレと感じないのは、そこまでの詩句に意思の真率さが歌われているからで、その生真面目さをやわらげています。
老いぼけなば色情狂になりてやらむもはや素直に生きてやらむ
◎この歌も機智が勝っていますが、前半のどぎづいとも言える詩句を、後半の「もはや素直に生きて」という思いに込められた真実な詩句で、ひっくりかえしているからです。そっちこそ本当じゃないだろうか、と考えさせる力があります。
アーモンド色の少女とすれちがふ街路みづのやうなる挽夏光
◎映像的な色彩感のある感性が響く歌。「アーモンド色」と「みづのやうなる」が鮮やかなイメージを呼び覚ます美しい歌です。
死にたらば同じ蓮(はちす)に住まうと言ふ改宗をして死なうと思ふ
◎この歌も機智が勝ったおかしみの歌ですが、いやらしさを感じないのは、ここにも「死んでまで夫婦一緒は嫌だ」という思いもあることを突く、鋭さがあるからです。
当然のこととされがちな建て前を暴き引っくり返すように、「本当はどうだろう?」と問う鋭い批評眼を持ちつつ、ユーモアとおかしさを溶け込ませて歌とする、個性の際立つ歌人だと感じます。
出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)から。
次回も、美しい歌の花をみつめます。
☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日、イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
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詩集 こころうた こころ絵ほん
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詩集 こころうた こころ絵ほん
新しい詩「花雨(はなあめ)」、「星音(ほしおと)」、「ことり若葉」をホームページに公開しました。
新しい詩「夕花(ゆうばな)」、「花祭り」をホームページに公開しました。
新しい詩「花身(かしん)」、「香音(かおん)」をホームページに公開しました。
新しい詩「幻色の」をホームページに公開しました。
新しい詩「黄の花と蝶のための楽譜」をホームページに公開しました。
新しい詩「羽の、スミレの旋律のように」をホームページに公開しました。
新しい詩「夕花(ゆうばな)」、「花祭り」をホームページに公開しました。
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Posted by 高畑耕治 at 00:05
│詩