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高畑耕治
高畑耕治

2013年06月26日

吉川宏志。梅内美華子。歌の花(四八)。歌の花(四八)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。歌の花の連載は今回で終了となります。

出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

■ 吉川宏志(よしかわ・ひろし、1969年・昭和44年宮崎市生まれ)。

夕闇にわずかに遅れて灯りゆくひとつひとつが窓であること  ◆『青蟬』1995年・平成7年
◎ひとつひとつわずかに遅れて灯る窓をとおして、窓のなかの部屋とそこにいる人に想いを馳せさせる歌。自然に人を想うということが、心を暖かくすることを、思い出させてくれるような、なつさしさを感じるような歌です。直接言葉にしないことで逆に想像がゆたかになる、文学の一面を良く伝えてくれます。

風を浴びきりきり舞いの曼珠沙華 抱きたさはときに逢いたさを越ゆ  ◆
◎男性としても自らの、愛する女性にたいする愛情と性的な欲望に揺らめく想いの姿を、真っ赤な細い曲線を風に揺らすまんじゅしゃげ、彼岸花の姿に重ねています。歌の色調が明るいのは、赤い花のイメージとともに、調べの主調がアA音だからです。「kAzeoAbi kirikirimAino mAnjyushAge dAkitAsAhAtokini AitAsAokoyu」、57577の2番目の7以外のすべての初音の母音がアA 音で頭韻していうことでその印象が強まっています。

「母さんのふとんも敷け」とおさな子は声しぐれたり妻の居ぬ夜に  ◆
鳳仙花の種で子どもを遊ばせて父はさびしい庭でしかない  ◆
◎父親の子どもへの想いの歌。一首目は、「声しぐれたり」という詩句におさな子の姿が鮮やかに感じられます。子どもの母親への愛着の強さを示すことで、母子を愛情で包み讃えているような、優しさがよいと感じます。
 二首目はとても素直な気持ちの吐露ですが、ホウセンカの種に託して、子どもの成長と将来の旅立ちを願う気持ちと寂しさが、よく伝わってきます。

● 梅内美華子(うめない・みかこ、1970年・昭和45年青森県生まれ)。

一度にわれを咲かせるようにくちづけるベンチに厚き本を落として  ◆『横断歩道(ゼブラ・ゾーン)』1994年・平成6年
みつばちが君の肉体を飛ぶような半音階を上がるくちづけ  ◆
◎二首ともに、くちづけを、鮮やかに歌っています。一首目は、「われを咲かせる」という詩句に熱いいのちがあってよいと感じます。二首目は、「肉体」と言葉もあり、より肉感的です。くちづけに「みつばち」を見つける感性、「半音階上がる」音を聴きとる感性に、若いいのちの、愛しあう悦びがあふれています。

シャワーにて髪を濡らしているときにふと雨の木になりて立ちおり  ◆
◎シャワーに濡れる髪と女性の体の曲線に流れはねる滴の透明感が、雨のなか立つ木の姿と重なって浮かび上がり、美しいと感じます。

わが首に咬みつくように哭(な)く君をおどろきながら幹になりゆく  ◆
重ねたる体の間に生るる音 象が啼いたと君がつぶやく  ◆
◎より性的に濃密な交わりの時を歌う二首。一首目の「首に咬みつくように哭く」という詩句は男性をよく捉えています。「幹になりゆく」というのは女性にしかわからない感覚だと、新鮮に感じます。
 二首目は、上句で男女の交わりをそのまま言葉にしていますが、「象が啼いた」という、とっぴな感じ方にあるユーモアが歌をやわらかく包んでいると感じます。作者が愛し合うこと、愛し合う時間を好きで、大切に感じとらえているので、この歌人の性愛の歌には清らかさを感じ、私は良いと思います。

 出典の二冊を媒介に、個性的な歌人たちの歌の花を感じとってきました。今回で終了しますが、彼らに続く世代の歌人たち、新しく咲いている歌の花を、今後また見つけ、別の機会に感じとっていきたいと、願っています。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

次回からは別の主題で、詩歌を見つめ感じとっていきます。

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    Posted by 高畑耕治 at 00:05 │