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高畑耕治
高畑耕治

2013年07月06日

歌を忘れた現代詩は、詩歌といえるか? 変体仮名(三)。

 詩歌が初めて書き記された記紀歌謡、万葉の時代から明治時代の後半までずっと、日本人は、歌物語も和歌も俳句も、(五十文字以上の異字体を混在させて)ひらがなだけで、書いてきた。言葉の音、調べの美しさを、詩歌にとって最も大切なものとする感性と伝統を育み受け継いできた、と前回記しました。では、現在はどうか? 今回はこのことを考えます。

 私が好きな詩人の八木重吉は、漢字をあまり使わず、ほとんどひらがなばかりの詩を多く書きました。彼の詩が美しく感じられるひとつの源にはこのことがあります。
 ひらがなでつづられた言葉は、一音一音を、読みとり聴きとらせるので、言葉の音楽となって響いてきます。彼の詩は、耳を済ませると美しい言葉の調べです。

 島崎藤村七五調の韻律は言葉の歌そのものです。単調さはありますが音数率と音色のゆたかな調べです。

 中原中也萩原朔太郎、言葉を深くみつめ感じたこの二人も、少年期から青年期に短歌に親しみ、詩に集中してからも、生涯、言葉の音楽性を意識し、言葉で歌うことに、こだわり続けました。

 宮澤賢治は詩で言葉の音楽を奏でるとともに、童話にも言葉の調べを息づかせていています。
 彼らは詩歌の本質、言葉の調べ、歌であることが詩歌の命であることを深く知り、表現しました。だから彼らの作品の言葉には、詩歌の豊かな伝統の清流のせせらぎと繋がる響きを感じます。

 短歌は和歌の流れそのものを受け継いでいるので、明治時代の与謝野晶子から現在に至るまで、言葉の音楽、抒情の調べを奏でる優れた歌人が美しい歌を生み出していると、私は思います。
 (俳句については今後とりあげ、別に書いていきます。)

 小説はもともと散文で言葉の音楽性に重きをおきません。伝統的にも和漢混淆文(わかんこんこうぶん)を受け、明治時代以降に翻訳造語を取り入れて、今もごつごつと生硬な姿です。批評も同じです、この文章のように調べは求めず、意味を伝達することをいちばんの目的としています。

 では、調べのゆたかな言葉が詩歌だという伝統を受け継ぎつつ、そのうえでさらに豊かなものを生み出そうと意識的に創作した近現代の優れた詩人の後、彼らに続き1945年敗戦の年以降に表現してきた詩人たちの作品は詩歌といえるでしょうか?
 言葉の音楽性、調べの豊かな歌を感じとれる詩はあり、優れた抒情詩人はいますが、あまり知られていません。一方で、政治思考と抒情性をまぜこぜにしたうえで全否定して断絶を宣言し現代詩を標榜する現代詩人の多くの作品は歌も調べも干からびていて、詩歌の豊かさも美しさも感じとれません。

 小説ほどの深い構成力も展開の魅力もなく、優れた批評の徹底した散文精神も持ちえず、翻訳詩のまねごとの行分け散文を、狭い仲間内の世界でもてはやさしあい乱造されすぎました。20世紀の後半は、詩の暗黒時代のように私は思います。
 時代が流れてゆき、数百年後の未来から振り返ったとき、この半世紀は良い詩歌が生まれなかった期間と、あっさり素通りされる気がします。

 詩歌が初めて書き記された記紀歌謡、万葉の時代からの和歌、歌物語、短歌、連歌、俳句、その美しさと感動を感じとれずに、おろそかにできるような奢る者に、心に響く詩歌は歌えません。
 言葉の音楽、調べの美しさ、歌であることが詩歌の本質であることは、これまでの二千年を超えた時代にも、これからの数千年間も、日本語で詩歌が創られ伝え合われる限り、変わることはありません。
 この事実に謙虚になったうえで、作品をそれでもそこから創ることができるなら、心の感動が言葉に宿る響き、詩歌が絶えることはない、それだけだと私は思い、創作しています。

次回からは、これまで私が深く感じとれなかった俳句の世界を訪れてみたいと思います。


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