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高畑耕治
高畑耕治

2013年09月21日

種田山頭火。わかれてきた道が。自由律俳句(十四)

 自由律俳句を己の人生に重ねた強烈な個性の俳人、種田山頭火(たねだ・さんとうか。明治十五年・1882~年昭和十五年・1940年、山口県生まれ)を前回から見つめています。

 以下、出典から私の心に特に響いた句を選び、似通うものを感じた句にわけました。「☆放浪をうたう(一)(二)(三)」、「♪音楽的な、調べの歌(一)(二)(三)」、「★戦時の句」の7回になります。

 今回は「☆放浪をうたう(二)」です。一句一句について、◎印の後に私の詩想を記していきます。

 ☆ 放浪をうたう(二)
  
  こほろぎに鳴かれてばかり

◎人と話すことなく旅する時間、日数に降り積もる淋しい感慨が、こほろぎの鳴き声となって響いてきて包みこまれる思いになります。「ばかり」という詩句が心の余韻をよく伝えてくれます。

  涸れきつた川を渡る

◎旅の情景の動画でありながら、簡潔であることで、読者それぞれに、自らの人生での「涸れきつた川」を思い起こさせる象徴性を孕んでいます。その音の強さと乾燥した音色は、KareKiTTaKawa、子音K音とT音から響きだしています。

  ながい毛がしらが

◎あまりに明らかな一つの事実、長く伸びた白髪から、感情が生全体に沁み広がるような句です。旅の時間へも想いが馳せていきます。とびとびに表れる三つの「が」の音が、浮き沈む調べのリズム感を生み出しています。

  うつむいて石ころばかり

◎長い旅の道のり、足元の石ころを踏みしめる一歩一歩が、眼に浮かび、想われる句です。この句も「ばかり」の余韻が心に響いてきます。象徴性も孕んでいて、読者の心の形、心の求めに応じて、読者の人生の映像を、鏡となって心に映し出します。「こんな時が私にもあった」と。

  うれてはおちる実をひろふ

◎旅の道中での糧とするために行う行為を淡々と言葉にすることで、この句も、人生という旅の象徴だとも感じとらせてくれます。

  ほんにしづかな草の生えては咲く

◎「ほんにしづかな」という形容に、作者の想いが沁みこんでいると感じます。「生えては」に続けた言葉「咲く」に、作者の願いが響いているように聞こえます。人もまた、静かに生まれ、生きて、花を咲かせているんだと。

  炎天のはてもなく蟻の行列

◎この句は逆に、生の過酷さ、苦しみ、虚しさを、凝視し歌わずにいられない作者を感じます。世俗を脱け出し放浪を続ける作者の眼は、「蟻の行列」に人間社会の縮図を見ていると私は感じます。

  重荷を負うてめくらである

◎この句の主語はまず「私・種田山頭火は」だと思います。だからこそ読者一人ひとりの心に、「私・(高畑耕治)は」という主語の波紋を揺さぶり起こします。文学の本質です。
 同時にまた主語を書き表さずに省略する日本語の特質を読み取りの自由度、象徴性を高める良さとして、上手く生かしているとも言えます。主語を言い表さずには文章にならない西欧言語では生み出せない句です。

  わかれてきた道がまつすぐ

◎旅で歩いてきた道を振り返る姿は、経てきた人生の時間と出来事を想う姿と、二重写しに重なって、深い感慨を滲みだします。「まっすぐ」という詩句には、その場所場所、その時々には、でこぼこで起伏激しく曲がっていても、過ぎ去り遠く遥かに振り返ると、ただ「まっすぐ」、そのような想いが込められていると、私は思います。旅、放浪の人だからこそ生まれた良い句だと思います。

 出典『現代句集 現代日本文学大系95』(1973年、筑摩書房)

 次回は、種田山頭火の句をみつめる「♪音楽的な、調べの歌(二)」です。



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    こだまのこだま 動画  

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    Posted by 高畑耕治 at 19:00 │