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高畑耕治
高畑耕治

2013年09月27日

種田山頭火。あの山なみの雪の。自由律俳句(十七)

 自由律俳句を己の人生に重ねた強烈な個性の俳人、種田山頭火(たねだ・さんとうか。明治十五年・1882~年昭和十五年・1940年、山口県生まれ)を前回から見つめています。

 以下、出典から私の心に特に響いた句を選び、似通うものを感じた句にわけました。「☆放浪をうたう(一)(二)(三)」、「♪音楽的な、調べの歌(一)(二)(三)」、「★戦時の句」の7回になります。

 今回は「♪音楽的な、調べの歌(三)」です。一句一句について、◎印の後に私の詩想を記していきます。

 ♪ 音楽的な、調べの歌(三)

  ふるさとはあの山なみの雪のかがやく

◎とても美しい音楽的な句。冒頭の句「ふるさとfUrUsatO」は母音ウU音で静かにうたいだし、「あのやまあなみAnoyAmAnAmi」「かがやくkAgAyAku」が明るく開ける母音アA音を山並みの頂のような調べの高みを波うたせています。「ゆきyuKI」と「かがやくKaGayaKu」の子音K音は目立ちませんが、鋭い音で光の輝きを放っています。三回表れる「のnO」は高みから平地の降りるような落ち着いたリズム感を生んでいます。

  うららかな鐘を撞かうよ

◎冒頭の「うららかなURARAKAnA」という母音アA音を連ねた響きは、明るい鐘の音色のようです。「かなKANa」と「かねKANe」と音が美しく変化しつつ木魂しています。「つこうよ」と呼びかけの声が伸びやかに鐘の音とともに拡がっていきます。
 ひらがなにただ二つ置かれた漢字の「鐘」と「撞く」は、おなじ「童」の形で微笑んでいます。
種田山頭火は、心そのままをうたう詩人であると同時に、何年にもわたって句の推敲をした言葉による表現、創作にこだわる芸術家でした。私はその両面をいったいにしようとした生き方をとても尊敬します。

  あうたりわかれたりさみだるる

◎「たり」の繰り返しが調べの波の浮き沈みつくっています。「さみだるる」は「るるRURU」が液体が流れるような音感を生んでいます。「さみだsAMIDA」には「なみだnAMIDA」が潜み溶け込んでいるように感じます。
 標記をひらがなばかりにしたのも、心が濡れて流れるさまを、やわらかく伝えたかったからだと思います。

  山ふところの、ことしもここにりんだうの花

◎冒頭と最後だけ、ともに一字の漢字で二音の「山yAmA」「花hAnA」が明るい母音アA音を奏で浮きだし呼び合っています。中間部は転調していて、「ふところの、ことしもここにりんどうfutOkOrOnO kOtOsimOkOkOni rindO」と、母音オO音がリズミカルな鼓動を響かせています。
 大きな山全体の広がりから入って、焦点を小さな花にまで絞り込んで行く、視点の動きも印象的な句です。

  産んだまま死んでゐるかよかまきりよ

◎「死んでゐるかよ」の「かよ」の何とも言い難い悲しみの入り混じったニュアンスと、死んでいる虫に語りかける「かまきりよ」が心に波紋を揺らし続けます。「産んだまま死んでゐる」、いのちを凝視する思いが強く心に迫ってくる句です。

  秋風、行きたい方へ行けるところまで

◎読点「、」の前後の対比、二文字の「秋風」と十四文字の後半部の、短さと長さが、等しく置かれていて、印象的です。「行きたい」を変化させ繰り返すことで最後の「行けるところまで」に込められた思いの強さが伝わってきます。

  日が山に、山から月が、柿の実たわわ

◎この句は読点「、」でほぼ心理的に三等分して、視点三つ対象に等しく注がせます。与謝蕪村の句「菜の花や月は東に日は西に」を想起し意識していて、四方を山で囲まれていることを上手く描きだしています。
 「日」、「月」、「柿の実」それぞれが、「たわわ」というやわらかな詩語により、とても丸いかたちで、並び、重なり、心に浮かびあがります。

  鳥とほくとほく雲に入るゆくへ見おくる

◎想いを遥か遠くまで馳せさせてくれる句です。「鳥」「とおくとおく」は「とTO」の音が頭韻のようです。「とおくとおく」の繰り返し、「くも」、「ゆくへ」、「みおくる」に繰り返し浮かぶ「くKU」の音、母音ウU音とオO音が、鳥が風に乗り上下しつつ飛ぶような調べを生んでいます。

  山のしづけさは白い花

◎簡潔な美しい句です。「しずけさ」「しろ」の「しSI」の清楚な澄む音が、「静けさ」「白」のイメージとともに調和した世界をかもし出しています。

 出典『現代句集 現代日本文学大系95』(1973年、筑摩書房)

 次回は、種田山頭火の句をみつめる「★戦時の句」です。




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    Posted by 高畑耕治 at 19:00 │