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高畑耕治
高畑耕治

2014年03月18日

赤羽淑「式子内親王の歌における時間の表現」(二)時間と空間が織りなす模様

 敬愛する歌人、式子内親王(しょくしないしんのう)の詩魂を、赤羽 淑(あかばね しゅく)ノートルダム清心女子大学名誉教授の二つの論文「式子内親王における詩的空間」と「式子内親王の歌における時間の表現」を通して、感じとっています。

今回からは、論文「式子内親王の歌における時間の表現」に呼び覚まされた私の詩想を記します。
                                          
◎以下、出典からの引用のまとまりごとに続けて、☆記号の後に私が呼び起こされた詩想を記していきます。
 和歌の後にある作品番号は『式子内親王全歌集』(錦仁編、1982年、桜楓社)のものです。
(和歌の現代仮名遣いでの読みを私が<>で加え、読みやすくするため改行を増やしています)。

◎出典からの引用1
 なお、「むなしき空」が霞や花に先立つものとして詠まれた歌に、

   かすみとも花ともいはじ春の色むなしき空に先づしるきかな  101
  <かすみとも はなともいわじ はるのいろ むなしきそらに まずしるきかな>

をあげることができる。「まだない空間」と、「もうない空間」を指示する「むなしき空」には、時間の経過を眺める視覚が感じられる。(略)(出典引用1終わり)

☆まだない空間
 赤羽淑はここで、式子内親王がひとつの詩句「むなしき空」で、先ほどの歌の「もうない空間」だけでなく、この歌のように「まだない空間」をも歌っていて、過去を今に、未来を今に、呼び込み孕みこみ溶かし込んでいることを教えてくれます。詩歌は、まだない未来、これから訪れる「霞や花」「春の色」をも、予感し、体感し、幻視し、思い描き、詩歌の「今」に孕み歌うことができると。

◎出典からの引用2
 刻々に移り変わってゆく時間と空間が織りなす模様を「むなしき空」に追いつづけ、その中にその時々のもの思いを移入して眺めてきたのである。

   はかなくてすぎにしかたをかぞふれば花に物思ふ春ぞへにける  12(新古今・春下 一〇一)
  <はかなくて すぎにしかたを かぞうれば はなにものおもう はるぞへにける>

と歌う時、これということもなく過ぎてしまった過去の「むなしい空」に浮ぶのは、あの年この年の花であり、あの思いもこの思いも花を介するものばかりである。作者は、花への思い出を数えることで、その時々の自己と対話し、花と共に生きて来た自己の実存をそこに見出すのである。はかない過去ではあるが花への思いで満ちた
時間であることが、「はかなくて」「はな」「はる」という「は」の音の反復によってもイメージ化される。(出典引用2終わり)

☆音の反復によるイメージ化
 赤羽淑のここで、彼女自身の「もの思いを移入して眺め」、式子内親王と交感し、内親王の心で眺めか当たっているように感じます。「はかない過去ではあるが花への思いで満ちた時間」、この言葉には、「花と共に生きて来た自己の実存」、慈しみ、愛する心が沁みとおって感じられます。

 詩歌は言葉の芸術、言葉の音楽、調べであることを理解し感受する彼女は、「は」音の押韻を、内親王がえらびかんじとり歌っていることを伝えてくれます。
 子音H音の息のかすれる音ほど、はかなさを感じる音はありません。意味、イメージと、音が、ふさわしく溶け合うとき詩歌はもっとも美しい花を咲かせると、私も思います。
 くわえて、この歌の抑揚の美しさを生み出しているのは、母音の変化です。「はHA」音を主音として、「かKA」音、「なNA」音、「たTA」音、「ばA」音、明るくのびやかな母音A音が波頭となり、他の母音i、u、e、o音の中間音、低音の沈む波間と、つぎのように美しく波うっています。

HAKANAkute suginisiKATAwo KAzoureBA HANAnimonoomou HAruzohenikeru
はかな(くて  すぎにし)かた(を) か(ぞうれ)ば はな(にものおもう) は(るぞへにける)

他の個性的な、K音やT音やS音、N音やM音も、美しく織り交ぜられ響いています。
 私のとても好きな一首です。

出典:赤羽淑「式子内親王の歌における時間の表現」『古典研究10』1983年。

 次回も、赤羽淑「式子内親王の歌における時間の表現」に呼び覚まされた詩想です。




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    Posted by 高畑耕治 at 19:30 │