2012年08月01日
土井晩翠の詩「星と花」
新体詩、近代詩の黎明期についての雑感を前回書き記しました。
書きもらしたことを、まず補記します。
●雅語と古語
薄田泣菫と蒲原有明は、その詩に、雅語と古語(既に使われない死語)をちりばめています。泣菫自身が言っているように、日本語による新体詩をより豊かにしよう、語彙を増やそうと意識しての開拓意思によります。
私は試みる意思に共感しますが、この挑戦は失敗だったと思います。
文語は口語と隔たっていますが、さらに文語でももちいない雅語と古語(死語)を取り込んだことで、口語からかけ離れた作品になってしまいました。声、息遣いを失ってしまったひとりよがりな言葉遊びです。
二人の詩が、とても読んで苦しいのはここに原因があります。現代詩の病弊と通じています。
言葉に対する理解が浅かったのではないでしょうか。詩語、詩句といっても、詩人がないものを創り出すものではありません。そこには驕りがあります。
私は古い言葉を大切にとても愛しく思います。そして、古代、万葉の時代に、話されていた、和歌に用いられていた言葉で、受け継がれてきて、今もなお用いられる言葉のいのちはすごいと思います。いのちとおなじように、受け渡されてきたのですから。
だからこそ、その美しさを伝え、輝かせ響かせ、言葉のいのち、言魂を受け渡すのが、詩人の役割ではないかと考えます。詩人は神様ではないのですから、無から生みだすことはできません。また、死語を復活させることもできません。
古典を古典として愛することは過去の遡り、解読し理解しようとすることだから、別のことです。
新しい詩をつくること、詩の創作は、他のどの文学ジャンルよりも、受け渡されてきた言葉、人と人との間で今生きている共有されている言葉の、表情、声音、ニュアンス、かたち、明暗、歴史をこそ、限りなくゆたかに響かせようとする試みなのだと思います。
以上、詩想を書き連ねましたが、そのうえで、私は、詩は作品がすべて、と思っています。作品は表情、個性をもったかけがえのない言葉の花、いのちです。
批評は大切であっても、詩の美しさは理屈ではありません。初恋の一目ぼれのように、好きならそれでいい、理由はいりません。感じとれることのほうが大切だし、詩の喜びは、こころを、感動を感じることです。
今回この詩人集を読んで、私が一目見て心ときめいた詩を咲かせます。この作品を見つけたから、読んでよかったと思っています。文語ですが、雅語や古語はまったく使っていないので、口語のすぐとなりにある詩です。
詩にとって百年の歳月の隔たりはあるようでないようなもの、今、いい詩だな、好きだなと私は感じます。
出典は『日本の詩歌2 土井晩翠、薄田泣菫、蒲原有明、三木露風』(1976年、中公文庫)です。
星と花
土井晩翠
同じ「自然」のおん母の
御手にそだちし姉と妹(いも)
み空の花を星といひ
わが世の星を花といふ。
かれとこれとに隔たれど
にほひは同じ星と花
笑みと光を良い宵々(よひよひ)に
替はすもやさし花と星
されば曙(あけぼの)雲白く
御空の花のしぼむとき
見よ白露のひとしづく
わが世の星に涙あり。
私も星や花が好きですので詩を書いています。一篇咲かせます。こころのこだまが聴こえるでしょうか?
すず虫とちいさな花(高畑耕治詩集『愛のうたの絵ほん』から)。
次回は、白樺派に想うことです。
☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日、イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2100円(消費税込)です。
イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
こだまのこだま 動画
☆ こちらの本屋さんは店頭に咲かせてくださっています。
八重洲ブックセンター本店、丸善丸の内本店、書泉グランデ、紀伊国屋書店新宿南店、三省堂書店新宿西口店、早稲田大学生協コーププラザブックセンター、あゆみBOOKS早稲田店、ジュンク堂書店池袋本店、紀伊国屋書店渋谷店、リブロ吉祥寺店、紀伊国屋書店吉祥寺東急店、オリオン書房ノルテ店、オリオン書房ルミネ店、丸善多摩センター店、くまざわ書店桜ケ丘店、有隣堂新百合ヶ丘エルミロード店など。
☆ 全国の書店でご注文頂けます。
発売案内『こころうた こころ絵ほん』
☆ キズナバコでのネット注文がこちらからできます。
詩集 こころうた こころ絵ほん
☆ Amazonでのネット注文がこちらからできます。
詩集 こころうた こころ絵ほん
書きもらしたことを、まず補記します。
●雅語と古語
薄田泣菫と蒲原有明は、その詩に、雅語と古語(既に使われない死語)をちりばめています。泣菫自身が言っているように、日本語による新体詩をより豊かにしよう、語彙を増やそうと意識しての開拓意思によります。
私は試みる意思に共感しますが、この挑戦は失敗だったと思います。
文語は口語と隔たっていますが、さらに文語でももちいない雅語と古語(死語)を取り込んだことで、口語からかけ離れた作品になってしまいました。声、息遣いを失ってしまったひとりよがりな言葉遊びです。
二人の詩が、とても読んで苦しいのはここに原因があります。現代詩の病弊と通じています。
言葉に対する理解が浅かったのではないでしょうか。詩語、詩句といっても、詩人がないものを創り出すものではありません。そこには驕りがあります。
私は古い言葉を大切にとても愛しく思います。そして、古代、万葉の時代に、話されていた、和歌に用いられていた言葉で、受け継がれてきて、今もなお用いられる言葉のいのちはすごいと思います。いのちとおなじように、受け渡されてきたのですから。
だからこそ、その美しさを伝え、輝かせ響かせ、言葉のいのち、言魂を受け渡すのが、詩人の役割ではないかと考えます。詩人は神様ではないのですから、無から生みだすことはできません。また、死語を復活させることもできません。
古典を古典として愛することは過去の遡り、解読し理解しようとすることだから、別のことです。
新しい詩をつくること、詩の創作は、他のどの文学ジャンルよりも、受け渡されてきた言葉、人と人との間で今生きている共有されている言葉の、表情、声音、ニュアンス、かたち、明暗、歴史をこそ、限りなくゆたかに響かせようとする試みなのだと思います。
以上、詩想を書き連ねましたが、そのうえで、私は、詩は作品がすべて、と思っています。作品は表情、個性をもったかけがえのない言葉の花、いのちです。
批評は大切であっても、詩の美しさは理屈ではありません。初恋の一目ぼれのように、好きならそれでいい、理由はいりません。感じとれることのほうが大切だし、詩の喜びは、こころを、感動を感じることです。
今回この詩人集を読んで、私が一目見て心ときめいた詩を咲かせます。この作品を見つけたから、読んでよかったと思っています。文語ですが、雅語や古語はまったく使っていないので、口語のすぐとなりにある詩です。
詩にとって百年の歳月の隔たりはあるようでないようなもの、今、いい詩だな、好きだなと私は感じます。
出典は『日本の詩歌2 土井晩翠、薄田泣菫、蒲原有明、三木露風』(1976年、中公文庫)です。
星と花
土井晩翠
同じ「自然」のおん母の
御手にそだちし姉と妹(いも)
み空の花を星といひ
わが世の星を花といふ。
かれとこれとに隔たれど
にほひは同じ星と花
笑みと光を良い宵々(よひよひ)に
替はすもやさし花と星
されば曙(あけぼの)雲白く
御空の花のしぼむとき
見よ白露のひとしづく
わが世の星に涙あり。
私も星や花が好きですので詩を書いています。一篇咲かせます。こころのこだまが聴こえるでしょうか?
すず虫とちいさな花(高畑耕治詩集『愛のうたの絵ほん』から)。
次回は、白樺派に想うことです。
☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日、イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2100円(消費税込)です。
イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
こだまのこだま 動画
☆ こちらの本屋さんは店頭に咲かせてくださっています。
八重洲ブックセンター本店、丸善丸の内本店、書泉グランデ、紀伊国屋書店新宿南店、三省堂書店新宿西口店、早稲田大学生協コーププラザブックセンター、あゆみBOOKS早稲田店、ジュンク堂書店池袋本店、紀伊国屋書店渋谷店、リブロ吉祥寺店、紀伊国屋書店吉祥寺東急店、オリオン書房ノルテ店、オリオン書房ルミネ店、丸善多摩センター店、くまざわ書店桜ケ丘店、有隣堂新百合ヶ丘エルミロード店など。
☆ 全国の書店でご注文頂けます。
発売案内『こころうた こころ絵ほん』
☆ キズナバコでのネット注文がこちらからできます。
詩集 こころうた こころ絵ほん
☆ Amazonでのネット注文がこちらからできます。
詩集 こころうた こころ絵ほん
新しい詩「花雨(はなあめ)」、「星音(ほしおと)」、「ことり若葉」をホームページに公開しました。
新しい詩「夕花(ゆうばな)」、「花祭り」をホームページに公開しました。
新しい詩「花身(かしん)」、「香音(かおん)」をホームページに公開しました。
新しい詩「幻色の」をホームページに公開しました。
新しい詩「黄の花と蝶のための楽譜」をホームページに公開しました。
新しい詩「羽の、スミレの旋律のように」をホームページに公開しました。
新しい詩「夕花(ゆうばな)」、「花祭り」をホームページに公開しました。
新しい詩「花身(かしん)」、「香音(かおん)」をホームページに公開しました。
新しい詩「幻色の」をホームページに公開しました。
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新しい詩「羽の、スミレの旋律のように」をホームページに公開しました。
Posted by 高畑耕治 at 06:00
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