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高畑耕治
高畑耕治

2012年08月31日

高田敏子の詩。恋うた、藤の花。

 今回から『日本の詩歌27 現代詩集』(中公文庫、1976年)を読みながら、私がいいなと感じた詩と詩人について書いていきます。タイトルは『現代詩集』ですがより今に近い時に書かれた詩と私はとらえ、それが特定の傾向をもつかどうかは気にしません。繰り返し書いていますが、私は詩の表現は移り変わっても進歩するものとは思いません。古い時代に優れた文学はいくらでも書かれています。
 アンソロジーの性格上、選者・編集者・批評者の好みが大きく影響しているので、この本に採録された詩人が優れているとは、また採録された詩がその詩人の代表作、最もよい詩だとは、考えていません。
 けれど、このような制約の上でも、心に響くいい詩との出会いはきっとあるだろうと、ひとりの読者として期待しています。この本の限界をこえたもっと豊かな出会いを求めて、さらに歩んでいこうと思います。

 この本については、女性の詩から読みとっていきます。同じシリーズの『近代詩集』採録の女性詩人があまりに少なかったからです。
 
今回は、高田敏子(1914年~1989年)です。この方については少し別の記事に記したことがあります。
(詩は花。門田照子『ローランサンの橋』)
 詩に対する姿勢への共感の思いを書きましたが、今回出会うことができた詩はとても心うたれる作品でした。とても嬉しく感じます。
 2作品を見つめます。ともに詩集『藤』所収です。

  別の名
          高田敏子


ひとは 私を抱きながら
呼んだ
私の名ではない 別の 知らない人の名を

知らない人の名に答えながら 私は
遠いはるかな村を思っていた
そこには まだ生まれないまえの私がいて
杏(あんず)の花を見上げていた

ひとは いっそう強く私を抱きながら
また 知らない人の名を呼んだ

知らない人の名に―はい―と答えながら
私は 遠いはるかな村をさまよい
少年のひとみや
若者の胸や
かなしいくちづけや
生まれたばかりの私を洗ってくれた
父の手を思っていた

ひとの呼ぶ 知らない人の名に
私は素直(すなお)に答えつづけている

私たちはめぐり会わないまえから
会っていたのだろう
別のなにかの姿をかりて――

私たちは 愛しあうまえから
愛しあっていたのだろう
別の誰かの姿に託して――

ひとは 呼んでいる
会わないまえの私も 抱きよせるようにして
私は答えている 
会わないまえの遠い時間の中をめぐりながら

 
 詩歌、歌は生まれでた源から今にいたるまで、愛の歌のゆたかな輝く流れでした。この愛の歌を出会い、私は素直な共感と感動につつまれます。
 いのちをみつめるまなざし、なつかしさ、生まれ出会い過ぎ去るとき、思い出し蘇る時の不思議な交錯とあらわれ。こころが歌となり現れでた、切なく美しい恋の歌。とても美しく、よい詩だと思います。


  藤の花
          高田敏子


きものの色が
少しずつ地味になあってきたように
料理も淡白なものが好きになった
「恋」という言葉も もう派手すぎて
恋歌も恋の詩も書けなくなった
書けなくなったころから
古い恋うたのこころがわかり
私の恋もまた 深く ゆたかに
静かに 美しいものになっていった
藤の古木が 千条の花房を咲かせるように。

 
 この落ち着いた恋の歌も、かさねられた年齢でこそ深まる味わいある表情で、風にゆれる藤の花のよう、美しく咲いていて、みつめていたいと感じる詩です。

 前回までの『近代詩集』を読みながら、女性詩人が少ないことともう一点、男女の愛の歌、恋の詩がないことを、私はとても残念に思っていました。
 愛(かな)しく心いっぱいにふるえてくれる恋のうたに出会えて、とても嬉しい気持ちです。

 今回は、私の恋の歌を木魂させます。
   詩「生まれた日から」(高畑耕治『詩集 こころうた こころ絵ほん』所収)。

  次回からは『現代詩集』から気ままに好きな詩を感じとります。女性の詩と詩人については、高田敏子をふくめて、もう少し時間をかけて、じっくり取りあげようと思います。

☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2100円(消費税込)です。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
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    Posted by 高畑耕治 at 06:00 │