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高畑耕治
高畑耕治

2013年02月07日

ミュージカルと詩歌。虚構を極め真実へ。

 前回に続き、ミュージカル映画『レ・ミゼラブル』と原作者のユゴーについての詩想です。

 私は映画が好きで青年期にはかなりの作品を観ましたが、特にミュージカル、ミュージカル映画は子どもの頃からずっと好きです。『サウンド・オブ・ミュージック』、『屋根の上のヴァイオリン弾き』、『ジーザス・クライスト・スーパースター』は今も心深く宿っています。
 『レ・ミゼラブル』は二回観ましたが、涙流れ心洗われます。観終わると、詩歌でこそあらわせる、詩心を響かせ感動がふるえだす作品を生みたいという願いがとても強まります。そう感じながら、次のような感gふぁ絵が浮かびました。

 映画や舞台芸術にも、とても豊かな表現方法があります。たとえば、日常の生活や歴史的な出来事を主題に観客があたかもその作品中の時間に居合わせているかのように感じさせようとして、その作品も作品を観ている時間も虚構とかんじさせないことを極力目指していく方法があります。
 その場合には出演者の動作や話しぶりも普段の生活と全く同じで演じてはいないと観客自らに思い込もうとさせる演技力が要求されます。場面、場面で流れる時間はドキュメンタリー、実写映像に限りなく近づいていくことを目指します。

 この志向性を文学という言葉による芸術表現で考えると、散文による虚構の文学、小説や物語が最も近いと思います。虚構の世界、物語を形作りながら、展開する場面、場面に流れる時間にはリアリティーが求められるからです。
 こまごまとした出来事や具体的な事物を執拗に描写するには散文が適しています。作者にも冷徹な眼が要求され、心が跳ね躍ることも酔うことも歌うことも禁じられます。
 前回のユゴーの詩「四日の夜の思い出」は詩でありながらこの志向度合いが強く、この詩人が小説も書ける力量を持っていたことにつながっています。

 上記の表現方法の対極にあると私が感じるのが、ミュージカル、ミュージカル映画と、詩歌です。
 作品は虚構でありながら虚構と感じさせない演技を目指す映画とは正反対に、ミュージカルは作品の中の時間も、出演者の演技も、虚構を極めることを目指します。
 ナレーションや日常の会話は散文ですが、それを排除して、出演者は最初から最後まで話さず歌い続けます。日常の時間ではありえないこと、人と人が会話ではなくいつも歌いながら意思を伝えあうなんて、普通おこらない、おかしなこと、虚構です。わざとらしくおおげさな印象を高め盛りあげるです。

 歌は人間の喜怒哀楽の感情がもっとも大きく揺れ動く全身全心の表現、感動の波うつ音楽です。だからミュージカルは、作品全体が人間にとっての感動の海だといえます。
 『レ・ミゼラブル』の出演者は歌になりきって演じます。歌うという演技であることをさらけ出したまま、演技という嘘であること虚構であることを忘れさせます。
 喜びも怒りも苦しみも悲しみも、人間の心の感情の極み、感動の響きの世界に包み込んで、観客の心の泉に喜怒哀楽のこだまを呼び覚まし、これこそ真実なんだと感じさせます。
 微笑みながら、笑いながら歌い、つぶやきながら歌い、涙流し泣きながら歌い、祈りながら歌い、絶望しながら歌い、演じ切る姿には、人間の感情が極まった美しさがあります。
 心高める歌で、虚構を極め、真実へと突き抜ける芸、芸術の力です。

 この志向性を文学と云う言葉による芸術表現で輝かせるのが、詩歌だと私は思います。
 散文にはできない言葉の歌であることで、喜怒哀楽を、作品という虚構を通して、心の高まりの極みである感動にまで誘い、人間の心の真実を響かせることができます。

 心豊かな詩人であったユゴーは、散文的な詩や小説を書く一方で、詩が言葉の歌だと知っていました。厳しく鋭く描写的、散文的な社会批評詩で怒りの作品を書きつつ、その対極の、優しく愛らしい次のような作品を生みました。悲惨を凝視するその向こうに必ず愛を見つめ歌っています。人間だからです。

 『レ・ミゼラブル』は悲惨な物語、でも愛の物語。そこに人間が生きて輝いて心に語りかけてくれるのは、彼がこのような人間の心の豊かさと深みを感じ歌う詩人だったからだと、私は思います。


  [おいで! ――見えないフルートが]
           ユゴー 安藤元雄訳


おいで! ――見えないフルートが
果樹園で溜息をついている。――
何よりもなごやかな歌は
羊飼いたちの歌だよ。

風はひいらぎの下で、
暗い水の鏡にさざなみを立てる。――
何よりも楽しい歌は
鳥たちの歌だよ。

何のわずらいも君には無用。
愛し合おう! 愛し合おう いつまでも!――
何よりも魅力的な歌は
恋の歌だよ。

詩の出典は、『筑摩世界文学大系88 名詩集』(1991年、筑摩書房)です。


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    Posted by 高畑耕治 at 00:05 │