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高畑耕治
高畑耕治

2013年03月01日

三ヶ島葭子の短歌。悲しみ、苦しみ、夭逝。歌。

 ここ百年ほどの時間に歌われた詩歌から、短歌の形で咲いた心の花をみつめています。
今回の歌人は三ヶ島葭子(みかじま・よしこ、1886年・明治19年埼玉県生まれ、1913年・昭和2年没)です。

 生年没年からわかるように彼女は二十代でなくなりました。
内面を自己凝視し、あふれるものを真率に吐露する、まっすぐな歌風なので、家庭内の不和からの苦しみと悲しみが、言葉に滲んでいます。
 
 彼女の歌に感じるのは、鋭敏な感受性が本来の資質のままにのびゆけずに、時代と生活の制約に押し込められ歪められた呻きと痛みです。
 ただ、忘れてはならないのは、彼女はそのようにしか生きられない生活の中でさえ歌ったことです。歌に対する資質と強い意思がなければできないことです。

 夫との不和。子どもと引き離されたこと。そんななかでも、歌った姿は、金子みすゞもそうですが、この時代に生きた多くの女性が声にすらできなかった思いを、今もわたしに教え感じとらせてくれます。

 彼女の歌から私の心に強く響いた歌を9首選びました。
 最初の4首は、子どもを歌っていますが、特に2首目と3首目の赤ん坊にそそぐまなざしの愛情の深さがあって初めて感受できる歌は、とても美しいと思います。
 7首目の引き離された子を思う歌は悲しいとしか、いいようがありません。
 5、6、8、9首目の歌に、彼女の自己凝視の強さと、歌にして書きつけることで、辛うじて生きているような、危うさ、絶望の断崖の淵に立ち尽くす叫びにちかい声が響いています。

 どれも悲しく苦しい歌ですが、その懸命さを歌として伝えてくれたことに、私は心を打たれます。

          『三ヶ島葭子全歌集』1934年・昭和9年まづ何をおぼえそむらむ負はれてはかまどに燃ゆる火など覗く子
親のかほけさやうやくに見いでたる瞳はいまだ水のごとしも
鈴ふればその鈴の音を食はむとするにやあはれわが子口あく
らんぷの灯届かぬ部屋に寝たる子の柔き髪寄りて撫でつも

たまゆらのわれの心に漲(みなぎ)りしかの憎しみを人は知らぬなり
死にたりと聞きて心のおちつきぬ死にたる弟思ひつつねむ

さかりゐる一人の吾子を思ひつつ眼つぶりて飯かきこみぬ

惜しきもの一つも無しと思ひつつ室の真中にひとり立りをり
今にして人に天甘ゆる心あり永久(とは)に救はれがたきわれかも

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。

 次回も、歌人の心の歌の愛(かな)しい響きに耳を澄ませます。



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    Posted by 高畑耕治 at 00:05 │