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高畑耕治
高畑耕治

2013年05月10日

1930年代生まれ6人の歌人。歌の花(二六)。

  出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。
 今回は1930年代生まれの6人の歌人の短歌です。

■ 水野昌男(みずの・まさお、1930年・昭和5年東京生まれ)。

石ころを音もたてずに押し上げてすっくと立ちし寒霜柱  ◆『正午』1928年・平成13年
◎私は抒情歌、心を歌う歌が、景色を描写、写実するだけの叙景歌より好きです。でもこの歌のように、叙景だけのように見える言葉で、心のあり方や精神性を、象徴させ感じさせてくれる歌は好きです。「音をたてずに」と「すっくと」という詩句が心に響くいい歌だと感じます。

■ 石田比呂志(いしだ・ひろし、1930年・昭和5年福岡県生まれ)。

<職業に貴賤あらず>と嘘を言うな耐え苦しみて吾は働く   『無用の歌』1965年・昭和40年
◎まっすぐな直情の歌。それだけに、共感する人としない人は完全に分かれます。歌は「そうは思わない」人の考えを変えようとする目的の論理的な主張ではないからです。逆に同じ思いを抱く人は、自分の思いを代弁してくれたような、深い喜びを感じとれます。私の場合は後者です。

店頭の赤き林檎の頬をつと指につつきて幼子ゆけり  『九州の傘』1989年・平成元年
◎林檎と幼子(おさなご)の情景が微笑ましく浮かぶ人間味ある優しい歌。慈しみがあふれてくるようないい歌です。

■ 嶋靖生(きじま・やすお、1931年・昭和6年大連生まれ)。

詠人不知・作者不詳・逸名・失名・無名 名のあらぬことのゆかしさ  ◆『肩』1997年・平成9年
◎詠み人知らずの歌についての、呼び方を漢字で並列した詩句に、面白さ・機智を感じるか、作為性が強すぎると感じるか、読者の好みが分かれると感じます。私はその面白さよりも、最後の一語に「ゆかしさ」という言葉をこの歌人が選んだから、この歌が好きです。

■ 小野興二郎(おの・こうじろう、1935年・昭和10年愛媛県生まれ)。

疾(と)く癒えてわが領分を生きよとぞ声すると思ひまた眠りゆく  『紺の歳月』1988年・昭和63年
◎病床での、悲しみの歌。自らが病のときにも、病にある人を想うときにも、心をうつ響きの真実を感じます。

■ 奥村晃作(おくむら・こうさく、1936年・昭和11年長野県生まれ)。
イヌネコと蔑(なみ)して言ふがイヌネコは一切無所有の生を完(まつた)うす ◆『鳷色の足』1988年・昭和63年
◎奢り思いあがる人間の鈍感さをあらわにするような批評精神の強靭さを感じさせる、心に響く歌です。

■ 小中英之(こなか・ひでゆき、1937年・昭和12年京都市生まれ、1938年・平成13年没)。

月射せばすすきみみずく薄光りほほゑみのみとなりゆく世界  ◆『わがからんどりえ』1979年・昭和54年
◎詩情に調べの溶けた美しい歌です。導入部は「TuKISaSeBa SuSuKI」、子音T音、K音、S音と息を細く吐く透明感のある音色が月の光のようです。また同音の重ね「すす」「みみ」「ほほ」が快いリズム感を生んでいます。「すす」「ほほ」は弱く息を吐く音、「みみ」は唇を結ぶ柔らかな音で、優しい詩情を奏でます。

むらさきに秋の山脈昏れゆけばふたたび明くる夜とは思へず  ◆『翼鏡』1981年・昭和56年
◎心が色彩に美しく染まる歌です。歌人が「山脈」を「さんみゃく」と読んだか「やまなみ」と読んだか、ふりがながないので私にはわかりません。音色としては「YAMANAMI」のなだらかな音が、詩想の色彩と情景に溶ける気がしますが、ふりがなをふらない以上どちらをとるかは、読者の自由です。完成した作品はもう読者のものです。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。


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    Posted by 高畑耕治 at 00:05 │