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高畑耕治
高畑耕治

2013年05月12日

稲葉京子。歌の花(二七)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

● 稲葉京子(いなば・きょうこ、1933年・昭和8年愛知県生まれ)。

抱かれてこの世の初めに見たる白 花極まりし桜なりしか  ◆『槐の傘』1981年・昭和56年
◎生まれたばかりの赤ん坊の眼差しを桜に想い起こす美しいイメージが広がる歌。上の句の末尾、一文字余白の前の詩句「白」が全体を染め上げています。
調べも美しく、下の句の調べはうねりのように、「hAnAkiwAmARISHI sAkurAnARISHIka」明るい母音アA 音と「ARISHI」が多音の押韻のように響きます。最後の問いの詩句「しかSHIKA」は、遠く上の末尾の詩句「白SHIRO」と二音どうしの木魂の変奏のようです。

人であり樹であることの偶然の空間に降る葩(はな)の雨  ◆
◎前の歌では「花」を「桜」としめしましたが、この歌での「葩(はな)」も桜だと感じます。「花」という漢字でjはなく「葩」にしたのは歌人の好みと、「葩」の漢字の中にある「白」に惹かれて桜をほのめかしたかった気がします。同じ意味を伝える漢字であっても、歌、詩行、詩句にもっとも合う字体を、私も選んで使うことがあります。
 調べに三回浮かぶ「の」がリズム感を生んでいます。人と樹を等しく感じる感性が美しい歌です。

水桶にすべり落ちたる寒の烏賊いのちなきものはただに下降す  ◆
◎下の句が説明の言葉、観念の遊びに堕してしないのは、一匹の烏賊(いか)の姿に死を強く感じたところから、生まれでた言葉だからです。良い歌の源には必ず感動がある、歌は感動に咲く花だと、私は思います。

言はざりし言葉は言ひし言葉よりいくばくか美しきやうにも思ふ  ◆『秋の琴』平成9年
◎想念の流れをそのまま書き留めたような歌です。上述の烏賊の歌と並べると、偽りない想いであっても観念的、源の感動は弱いと感じます。詩句のなかに「いくばくか」ともあり、ふと想った、くらいの強さです。

若き日の耀ひて見ゆ身を折りて泣きし記憶もまして耀ふ  ◆『秋の琴』平成9年
◎この歌では同じ意味をあらわす「かがやいて」「かがよう」という言葉を繰り返しています。繰り返しは同音の木魂が耳に快いですが、反面、三十一文字という限られた制約の中では単調、平板にしてしまう負の側面もあわせもちます。この歌では、あえて同語を繰り返しつつ「まして」という強調の詩句で微妙な差異を照らし出すためにも、同語の繰り返しがなくてはならなず、緊密に呼び合い、美しく木魂しています。

桜狂ひなりし亡き父わがまなこ貸して今年の桜花を見せむ  『しろがねの笙』1989年・平成元年
◎亡き父を偲ぶ想いが桜の花のイメージと色合いに溶けて心をうつ美しい歌です。「わがまなこ貸して」という詩句に娘と亡き父が少なくとも想いのうちでは今も重なりあい一体となれる、共にいるという想いが聴こえてきます。

みどり児の重さをかひなは記憶せり赤枇杷一枝宙に撓(たゆ)めり
◎母親の赤ん坊を抱いた腕の記憶を枇杷の木の枝に感じる歌ですが、この歌人は樹木にとても親しいものと感じ、人間に対してと同じように樹木を愛する、感受性の持ち主だと、この歌からも伝わってきます。赤枇杷と赤ん坊のイメージが重なり溶け交じり合うのも美しく感じます。枝に抱かれて。母の腕に抱かれて。

アマリリスの花茎のびてゆく力しづかにおのれを立てよと言へり
◎アマリリス「AMALILISU」響きの美しい名前です。歌人は花の言葉を聴き取っています。花や樹と会話する心を失わない人が歌人であり詩人だと私は思います。だからとても好きな歌です。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。


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    Posted by 高畑耕治 at 00:05 │