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高畑耕治
高畑耕治

2013年05月14日

石川不二子。小野茂樹。歌の花(二八)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

● 石川不二子(いしかわ・ふじこ、1933年・昭和8年神奈川県生まれ)。

紅梅が見たしと思ふ 唐突にせつぱつまりし如くに見たし  ◆『牧歌』1976年・昭和51年
◎これら二首はこの歌人が抒情歌人としての天性、資質をもっていると伝えてくれます。人としての心と感情を、情熱と愛をこめてまっすぐに歌う抒情歌が、私はいちばん好きです。

のびあがりあかき罌粟(けし)咲く、身をせめて切なきことをわれは歌はぬ  ◆
◎意味・イメージと調べが美しく溶け合う抒情歌。上の句は、母音アA音と母音イI音、子音K音と子音S音の並びとバランスが快い調べを奏でています「nobIAgArI AKAKI KESISAKu」。続く歌うことへの意思を奏でる詩句では、「せめて」「せつなき」の「せSE」のかすれる息の繰り返しが切迫した音を響かせています。「われは歌はぬ」、いい詩句に深い共感の思いを抱きます。

わが息子この日ごろ歯の生えそめてつつましく子もわれもはにかむ
◎とても愛らしい歌。歯が生え始めたばかりの息子との愛情の交感に心温まります。「つつましく」そして「はにかむ」という詩句が美しく響きます。

荒れあれて雪積む夜もをさな児をかき抱きわがけものの眠り  ◆
◎この歌も、外の荒れた雪の寒さとの対比でなおさら、母の愛が暖かく響きます。「わがけものの眠り」という言葉に、歌人の生き物としてのいのちの実感が込められていると感じます。吹雪のなか戸外とおい洞穴などで子を抱き冬眠している熊や野生のけものたちのイメージも重なり、母と子の命の交感はどの生き物もおなじだよと、伝えてくれているように私は感じます。

手握りてびらうどに似る青梅のかたき弾力を指がよろこぶ  ◆『鳩子』1989年・平成元年
◎触感を伝える「指がよろこぶ」という詩句がとても良く、読むと自分の手のひらにもその感覚が生まれる気がします。詩歌では五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触感)をどのように言葉で読者に伝えるかに、芸術家としての技量が現れることがおおいと私は思います。

■ 小野茂樹(おの・しげき、1936年・昭和11年東京生まれ、1970年・昭和45年没)。

ひつじ雲それぞれが照りと陰をもち西よりわれの胸に連なる  『羊雲離散』1968年・昭和43年
◎この歌人も繊細な感受性を歌える抒情歌人だと感じます。空高く群れ歩く羊雲の輝きが「照りと陰をもち」という詩句で、立体感をもって浮かびあがります。「われの胸に連なる」という詩句は独創的で美しく、この表現でしか示せない空に繋がる感覚を読者は「ああわかる」と発見できる喜び、感動を感じます。

強いて抱けばわが背を撲(う)ちて弾みたる拳をもてり燃え来る美し
◎抒情歌のなかの抒情歌は恋愛の歌だと、ポーも萩原朔太郎も言っていますが、この歌人も恋を美しく歌っています。
背中に弾む拳を感じる思いがします。「燃え来る美し」という詩句は愛の感情の高まりを二音二音四音でリズム感よく奏でています。前にある詩句「もてりMOteRI」と「燃えMOe」の「MO」が頭韻、「美し」の末尾の「しshI」の母音イI音が脚韻し、「来る美しkUrUUtUkUshi」と母音ウU音を5回重ねて、美しい調べを響かせています。

五線紙にのりそうだなと聞いてゐる遠い電話に弾むきみの声  ◆同上
◎この歌人が言葉の響き、音色、音楽に鋭敏なことがそのまま歌になっているようです。女性の声は男性の耳に快いですが、愛する女性の声はなおさらです。彼女の声が音符になって弾んでいるようです。

あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ  ◆
◎愛するひとへの心のなかの呼びかけの思いが美しく馳せてゆくようです。調べに波のうねりを感じるのは、子音に隠れた母音に大きな変化があるからです。冒頭と中間部に明るい母音のアA音の連なり「AnonAtsuno kAzukAgirinAki」「mAtAtAttA」があり、それに続く部分は他の母音での変奏を感じます。

われに来てまさぐりし指かなしみを遣らへるごときその指を恋ふ  ◆
◎「遣らへる」という詩句は不思議なやわらかさを響かせいます。「まさぐりし」という詩句が指の肌触りを心に呼び覚ましてくれて、愛する人を想うかなしみの気持ちが「恋ふ」という詩句に注ぎ込む小川のせせらぎのようです。愛の歌はいいなと、感じさせてくれる歌人です。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。


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    Posted by 高畑耕治 at 00:05 │