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高畑耕治
高畑耕治

2013年05月19日

佐々木幸綱。春日井健。歌の花(三〇)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

■ 佐々木幸綱(ささき・ゆきつな、1938年・昭和13年東京生まれ)。

◎前回の寺山修司とともにこの歌人も個性の際立つ歌人です。男歌を歌う歌人です。「男性的な」姿と心のあり方を押し出しているので、読者により好き嫌いが分かれる気がします。
 男歌らしく、愛する女性を「お前、おまえ」と呼び、「抱き合う」のではなく能動的に「抱(いだ)く」と歌います。
 私は性について、とくに心では、女と男は陸続きで混じり行き交うものでさえあるので、「男性的」「女性的」と一般的な概念で類型的に分けることは、あまり意味がないと考えています。でも次の三首の歌には、愛する強い思いが、強く美しくほとばしりでていて、とてもいいと感じます。
 言葉の音に鋭敏な歌人だとも感じます。

サキサキとセロリ噛みいてあどけなき汝(なれ)を愛する理由はいらず  『緑晶』合同歌集1960年・昭和35年
◎この歌は「サキサキSaKiSaKi」「セロリSerori」「噛みKami」の子音S音とK音が意味に溶け合って響き、後半は母音アA音で大きな波のように「AdokenAkiNAreoAisuru」と心の高まりを歌いあげます。
 この歌で「おまえ」を使わないのは、「あどけなきadokeNAi」の「なNA」の音に続く調べの流れで「汝(なれ)NAre」という詩句の音を選んでいます。

ゆく水の飛沫(しぶ)き渦巻き裂けて鳴る一本の川、お前を抱(いだ)く  ◆『夏の鏡』1976年・昭和51年
◎この歌は母音イI音と子音S音とK音が「SIbuKIuzumaKI SaKe」と水のイメージと溶けていて、後半は「一本の川、」と、川とお前を並置し間に置いた句点の息の休止、間(ま)の無音があることで、最後の「お前を抱く」の音が強く屹立して感じられます。

泣くおまえ抱(いだ)けば髪に降る雪のこんこんとわが腕(かいな)に眠れ  ◆
◎この歌では「こんこんと」がイメージと音楽の両方で中心にあって、雪が「こんこんと」降る、伝統ある表現と、「こんこんと」眠れ、眠りの深いやすらぎの音楽の両方にかけて美しく響かせています。

抱き合って動かぬ男女ゆっくりと夕波は立つ立ちて崩るる  『火を運ぶ』1969年・昭和54年
◎美しい男女のシルエットのイメージが浮かびあがります。「立つ」と「立ちて」の間に置かれたリズムの変化点が、調べの印象をとても強めています。最後の「るるRURU」の音も抒情の調べそのものです。

一輪とよぶべく立てる鶴にして夕闇の中に莟(つぼみ)のごとし  ◆『金色の獅子』1989年・平成元年
◎この歌も鶴の姿と花のつぼみのイメージが夕闇に溶け、美しく咲いています。

風呂場より走り出て来し二童子の二つちんぽこ端午の節句
◎男児のドタドタ走る姿が弾んでいるような歌。「端午の節句」という詩句に「元気に育て」という思いが込められいるように聞こえます。

のぼり坂のペダル踏みつつ子は叫ぶ「まっすぐ?」、そうだ、どんどんのぼれ  ◆
◎この歌も、自転車をこぐ子どもの姿と声が聞えてくるようです。子に答える後半の詩句は、会話のカッコ「」を外していることで、子への答えと同時に歌人の思いのうちに響きひろがる子の将来への願いの声にもなっています。爽やかな歌です。

■ 春日井健(かすがい・けん、1938年・昭和13年愛知県生まれ)。

大空の斬首ののちの静もりか没(お)ちし日輪がのこすむらさき  ◆『未青年』1960年・昭和35年
◎「斬首」という詩句のイメージの強さが歌全体を染めあげています。色彩が鮮やかな歌です。

死ぬために命は生るる大洋の古代微笑のごときさざなみ  『青葦』1984年・昭和59年
◎スケールの大きな歌です。空間と時間が大きく拡がっています。大洋、広い広い海と、古代から今までずっと変わらずに微笑んできた、微笑んでいるさざなみ。死と命という無限に深い問いを、海の情景に溶かし込みふるわせている、心に響く歌です。「生るる」の「るるRURU」の音のふるえもさざなみのように聴こえてきます。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。

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    Posted by 高畑耕治 at 06:05 │