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高畑耕治
高畑耕治

2013年05月26日

成瀬有。佐藤通雅。三枝昂之。歌の花(三四)。

 典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

■ 成瀬有(なるせ・ゆう、1942年・昭和17年愛知県生まれ)。

水界の峠は越えよ舞ふ白きひとひらの身のかなしくば、鳥  『流されスワン』1981年・昭和56年
◎イメージが美しく浮かびあがる詩です。五七調で、「すいかいの」五音、「とうげはこえよ」七音の後に大きな区切り・谷をつくり倒置し、「かなしくば」の後少し小さな区切り・谷でもう一度倒置し、最後の一語「鳥」、白鳥への呼びかけを、歌のクライマックスにまで高めています。
 意味の連続でつなげた散文「鳥」「舞ふ白きひとひらの身のかなしくば、」「水界の峠は越えよ」に比べると、詩句の並びによって、調べに波を生んで大きくうねらせていることがわかります。
 「ひとひらの」と「かなしくば」のひらがなの文字の並ぶ形が、空を翔ける白鳥の姿のようにも私には見えます。美しい歌です。

■ 佐藤通雅(さとう・みちまさ、1943年・昭和18年岩手県生まれ)。

秋の野のまぶしき時はルノアールの「少女」の金髪の流れを思う  『薄明の谷』1971年・昭和46年
◎野が金色に染まり穂波揺れるとき想うのは絵画の少女の流れるような髪、、野の情景に絵画が重なり浮かぶ詩情ゆたかな歌です。
  
反戦映画見し夕暮は敷石の一つ一つを踏みて帰りき
◎「敷石の一つ一つを踏みて」という詩句に、うつむき反戦について思い考え歩く姿が浮かびます。
 「SHIKIISHIno hItoTSUhItoTSUo」の調べは母音イI音の引締る音が主調で、子音と「しSHI」「きKI」を織りなし「つTSU」とともに、緊張感ある強い音を奏で、情景と溶け合っています。

いつさんに木洩れ日の坂下り行く蟬を握りて熱きてのひら  『水の涯』昭和1979年・54年
◎「熱きてのひら」と触覚を歌っているので、夏の日の子どもの日の、てのひらと心に焼きついた、忘れられない記憶を歌っているように感じます。
 ドストエフスキーも「創作ノート」で、創りだす作品の源に伝えずにはいられない「焼きついた強い記憶」があることが大切だと記しています。そのような時はいつまでも、「今」として変わることなく心にあり、作品となって「今」にあらわれでる、と私は思います。

死の想念に苦しみしころことさらにマーガレットはまぶしかりにし  ◆『天心』1999年・平成11年
◎この歌も心に焼きつき続けている「マーガレット」のまぶしさが、「今」歌となってあらわれでています。「マーガレット」の「マMA」音と「まぶしかりにし」の頭の「まMA」はたった一音ですが、歌のなかの最も強い二つの詩句の頭の音なので、木魂しあい頭韻を奏でています。

■ 三枝昂之(さいぐさ・たかゆき、1944年・昭和19年、甲府市生まれ)。

小さき手をひらきて示す化石あり姿滅びぬ千年あわれ  ◆『甲州百日』1997年・平成9年
◎最後の詩句「あわれ」に感動が静かに強く響いています。「小さきchiisAKI」「ひらきhirAKI」「化石kaseKI」「ありArI」の語尾の音が微かな脚韻のように呼応し調べに脈動を生んでいます。
 「姿滅びぬ千年」という詩句に、遠く長い時間といのちに思いを馳せさせずにはいない強い響きを感じます。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。


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    Posted by 高畑耕治 at 00:05 │