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高畑耕治
高畑耕治

2013年05月29日

永田和宏。花山多佳子。歌の花(三六)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

■ 永田和宏(ながた・かずひろ、1947年・昭和22年滋賀県生まれ)。

動こうとしないおまえのずぶ濡れの髪ずぶ濡れの肩 いじっぱり!  『メビウスの地平』1975年・昭和50年
◎愛し合う女性との雨に打たれながらのドラマの情景を男性が歌っています。「ずぶ濡れ」という詩句の繰り返しが、青春の匂いを漂わせます。その音「ZUBUNURE」にも雨の重さに浸らされる響きがあります。

なおも夕映え 両生類のごと淡く息つめておりひとりのまえに
◎夕映えのなか時を止めて愛の思いを無言で伝え合う男女の姿が浮かびあがります。「両生類のごと淡く息つめて」という詩句には、愛する女性を前に、美しさと愛しさを感じる男性の思いは、人もカエルも変わらない、というように私には聴こえます。調べは母音を変化させながら浮き沈みしていて、「おりひとりのまえORI hitORInomaenI」といった目立たない押韻にも静かな美しさを感じます。

髪に指入れて抱けばはろばろと草いきれ立つ夜の髪ゆえ  ◆『黄金分割』1975年・昭和50年
◎女性の髪を指に、体温のぬくもりを胸に、感じるような歌です。「はろばろと草いきれ立つ」に髪が香るようです。


背後より触るればあわれてのひらの大きさに乳房は創られたりき  『やぐるま』1986年・昭和61年
◎この歌も男性の女性のからだに感じる感動が「あわれ」という詩句に素直に響いています。後半はその思いを自分に言い聞かせているようにも聴こえますが、「乳房は創られたりき」という詩句には、より遥かな「いのち」の受け継ぎに思いを馳せさせる響きを感じます。女性を愛する心から生まれた歌だからだと思います。

● 花山多佳子(はなやま・たかこ、1948年・昭和23年武蔵野市生まれ)。

子守唄うたい終わりて立ちしとき一生(ひとよ)は半ば過ぎしと思いき  ◆『楕円の実』1985年・昭和60年
海のかなたはなべて戦場二人子に添寝ののちの身を引き起こす  ◆
◎これら二首は、母親の子育てを通しての感慨が歌われています。
 一首目は、赤ん坊、幼児の育児に没頭する合間にふと思い浮かんだような言葉です。喜びと背中合わせの寂しさ、育児のたいへんさと重みを感じさせられます。
 二首目は、世界のいたるところで止まない戦火をみつめ、わが子の将来を思いつつ、戦火の渦中に投げ込まれている他国の子どもたちへの思いも込められているように、私には聴こえます。

あとずさりあとずさりして満月を冬の欅の梢(うれ)より離す  ◆『空合』1998年・平成10年
◎情景が鮮やかに浮かんでくる歌です。冬のケヤキの葉の落ちた梢の枝先にひっかかる満月、その丸みはまるごと見つめたいという気持ちを引き起こす魅力に満ちています。月の光が優しい顔で心に微笑んでくれるような歌です。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

 次回も、美しい歌の花をみつめます。


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    Posted by 高畑耕治 at 00:05 │