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高畑耕治
高畑耕治

2013年06月03日

阿木津英。永井陽子。影山一男。歌の花(三八)。

 出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。

 出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。

● 阿木津英(あきつ・えい、1950年・昭和25年福岡県生まれ)。

ああああと声に出して追い払うさびしさはタイル磨きながらに  ◆『紫木蓮まで・風舌』1980年・昭和55年
柿の木のうちの力が朱に噴きて結びたりけるこずえこずえに  ◆『天の鴉片』1983年・昭和58年

◎一首目は、日常のなかでの心模様を吐露する歌。「さびしさはタイル磨きながらに」「ああああと声に出して追い払う」と置き換えると限りなく散文に近づくことから逆にわかるように、倒置で声そのものを頭において「ああああと声に出して追い払う」強調することで、歌に高めています。
 二首目は、柿の実の言葉による表現として、とても優れていると思います。「うちの力が朱に噴きて」と感受する感性に生れ落ちた美しい歌だと感じます。後半部のひらがなの文字の一音一音の連なりは、柿の実が点々と実を結んでいる姿のようにも私には見えます。

● 永井陽子(ながい・ようこ、2951年・昭和26年愛知県生まれ)。

逝く父をとほくおもへる耳底にさくらながれてながれてやまぬ  『なよたけ拾遺』1978年・昭和53年
うつむきてひとつの愛を告ぐるときそのレモンほどうすい気管支
こなごなの人の魂ほどれんげさうどこにも咲けるふるさとなりき  『樟の木のうた』1983年・昭和58年
ここはアヴィニョンの橋にあらねど♩♩♩曇り日のした百合もて通る  『ふしぎな楽器』1986年・昭和61年

◎感性の繊細さが言葉の音楽にふるえでているような歌です。
 一首目は、不思議な感性ですが、なんとなくわかり、美しく感じます。「さくらながれてながれてやまぬ」をすべてひらがなにしているので、「さくら」のはかなさの音楽がさらさらと澄みきって流れてゆくように感じます。もう一つの感じとり方として「さくら」の歌を心に聴きとってもいいと感じます。
 二首目は、愛を告白するときの胸と息の詰まる思いを、とても美しい詩句で歌います。「レモン」は甘酸っぱさと果汁の透明感を弾けさせ、「うすい気管支uSuIKIKanSI」は、子音Sと子音K、母音イI音が、か細くもれ出る告白の言葉そのもののような音を奏でています。
 三首目も、不思議な感性の歌ですが、「こなごなの人の魂」と同じくらい多い「れんげそう」は、という感じ方と、「こなごなの人の魂」にとってこそ「れんげそう」は、という感じ方、どちらにも受け取れ、その曖昧さの間で揺れながら、読者が好きなように感じとれば良いと思います。「れんげそう」は「どこにも咲けるふるさとなりき」として心に微笑んでくれることに変わりはありません。「れんげそう」「ふるさと」とひらがなにしているのも、詩想の優しさにとてもあっています。
 四首目は、フランス民謡「アヴィニョンの橋の上で」を、音符三つ♩♩♩を並べて、楽しくBGMのように奏でています。私は音符を見ると音楽を想えて好きですので、この歌の感性もいいなと思います。

■ 影山一男(かげやま・かずお、1952年・昭和27年東京都生まれ)。

春の日の空には鳥語地にはわが幼女(をさなをみな)と草花のこゑ  『天の葉脈』1987年・昭和62年以後

◎「鳥語」、「幼女(をさなをみな)」と特異な詩句の感じ方で好みが分かれる気がします。春の明るさが優しく伝わってくるのは、最後の詩句「草花のこゑ」が、鳥と幼女といっしょに、草花もささやき歌っていると伝えてくれて、」とてもいいからだと感じます。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)
から。

次回も、美しい歌の花をみつめます。


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    Posted by 高畑耕治 at 00:05 │