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高畑耕治
高畑耕治

2013年07月16日

与謝蕪村、恋も童話も。俳句の調べ(四)。

 『日本の古典をよむ⑳ おくのほそ道 芭蕉・蕪村・一茶名句集』(2008年、小学館)から、今回は与謝蕪村(よさ・ぶそん、1716~1683年)の俳句を前回に続き、見つめます。

 注解者は、山下一海(やました・かずみ、鶴見大学名誉教授)で、蕪村の俳句を多様な角度から照らし出し感じとり、特に俳句の調べ、音楽性にも言及していて、私は深く共感しました。

 以下、俳句の調べについての注解がある句を中心に選び、私が好きな句を加えました。注解者の言葉の引用は、注解引用◎、の後に記します。私の言葉は☆印の後に印します。

  燃立て貌はづかしき蚊やり哉(もえたちてかほはづかしきかやりかな)

注解引用◎「かほ・かやり」という頭韻もいい。
☆ 男女の顔が一瞬火に照らしだされ、恥じらいあう、初々しい抒情、恋の感情を俳句でも歌える、歌っていることが、私にはとても新鮮に感じられる句です。


  落穂拾ひ日あたる方へあゆみ行(おちぼひろひひあたるかたへあゆみゆく)

注解引用◎「ひHIろひひHIあAたる方へあAゆYUみゆYUく」と押韻を順を追って重ねた声調は、静かに歩を運ぶ動作を写しており、一句の落ち着いた色調にもふさわしい。
 ☆ 優れた注解です。「ひHI」音、「あA」音、「ゆYU」音がそれぞれ押韻しているので、18音中6音が、句の中で順に呼び合っています。最後の詩語を「あゆみゆく」としたことで、その動きを続けている姿が目に浮かんできます。


  猿どのゝ夜寒訪ゆく兎かな(さるどののよさむとひゆくうさぎかな)

注解引用◎「夜寒訪ゆく」といういかにも俳諧風の表現を童話風に当てはめているところがおもしろい。
☆ 詩心は感動する心だから、詩人は子ども心を忘れず失わない人だと私は思います。いつもしかめ面、厳しい表情をしていることが詩人の証ではありません。やわらかな心の明るさをも、蕪村が俳句で響かせていることを、私は心から尊敬します。


  待人の足音遠き落葉哉(まちびとのあしおととおきおちばかな)

注解引用◎ともかく人を待つ身の焦燥を微妙な感覚で表したこの句は、叙情詩としても逸品であり、落葉の持つ季題趣味からは完全に脱している。
 ☆この注解も優れています。恋の歌です。歌の叙情性は音楽性と結びついています。子音に隠れた母音だけを抜き出してならべてみると、AIIOO AIOOOOI OIAAAとなり、明るい母音の「アA音」、引き締める母音の「イI音」、少し沈む母音の「オO音」が感情の浮かび沈む、期待と不安のを奏でています。


  雪の暮鴫はもどつて居るやうな(ゆきのくれしぎはもどつてゐるやうな)

注解引用◎「居るやうな」という口語調の中に、鴫に対する優しい気持が感じられる。
 ☆ 日本人の心のあり方、会話の特徴は、論理的、断定的に言い切る言説ではなく、語尾を濁し、あるいは消音して言い切らないところにあります。島崎藤村は小説での会話にその特徴を意識的に活かしたと読んだことがありますが、この俳句も口語調で、その特徴を上手く活かしています。
 言い切らない曖昧さが、なんともいえない余情を句の後にも漂わせ、心に波紋をひろげ続けます。

  みどり子の頭巾眉深きいとほしみ(みどりごのづきんまぶかきいとほしみ)

注解引用◎「いとほしみ」といって「いとほしさ」としなかったのは、首尾に「み」を配して中七の「ま」に照応させる整調のためであろうし、また「いとほしむ」という動作の余情をとどめる表現効果が考慮されているとの解がよかろう。
 ☆ 優れた注解です。この俳句にも童心につながる詩人の心、美しい詩歌の源に必ずある人間の愛があります。蕪村は抒情詩人だったのだと、私はとても嬉しくなります。

  葱買て枯木の中を帰りけり(ねぶかかうてかれきのなかをかえりけり)

注解引用◎カ行音を主とした声調は、寒林の乾いた空気と淡白な心情を写し出している。
 ☆カ行音「か」「き」「け」「こ」の音が多く、特に四回あらわれる「か」の音が、よく響き、聞こえてきます。注解の通り、イメージの情景と響きとても合っている、乾いた音が心にエコーを重ねてゆくので、心象風景にも、象徴風景にも、高められて感じられます。俳句の、詩歌の力だと感じます。

 与謝蕪村の文学についてはより深く感じとる機会をつくりたいと考えています。次回は、小林一茶の俳句を見つめます。

出典:『日本の古典をよむ⑳ おくのほそ道 芭蕉・蕪村・一茶名句集』(2008年、小学館)


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    Posted by 高畑耕治 at 00:05 │