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高畑耕治
高畑耕治

2013年12月11日

オウィディウス『変身物語』(十)。ピュタゴラス、殺すことによって生きてゆくとは。

 ローマの詩人オウィディウス(紀元前43年~紀元17か18年)の『変身物語』に私は二十代の頃とても感動し、好きになりました。
「変身」というモチーフで貫かれた、ギリシア・ローマ神話の集大成、神話の星たちが織りなす天の川のようです。輝いている美しい星、わたしの好きな神話を見つめ、わたしの詩想を記していきます。

 今回と最終回はピュタゴラスを通して述べられたオウィディウスの死生観です。

 ピュタゴラスを、最初の菜食主義者、獣肉を食することをよしとしない最初のひとだった、「彼のこの賢明な言葉は、ひとの信を得るにはいたらなかった。」とオウィディウスは書きます。
「賢明な言葉」に、彼の共感が示されています。そのことと、彼が生活において菜食主義者として生活したかは別なことがらだと思います。

 この主題は、ひとりひとりの宗教観、信仰とも密接に関わってきます。私は二十歳の頃、「青年は老人だ」とノートに記していました。死生をみつめ間近に感じる想いの強さ、生き方に迷い、信仰を思うことに、近いものを感じていました。その後も変わらないので、私は青年期からずっと老人でいるのかもしれません。

 プロテスタントの家庭で育ち、祖母は浄土真宗を信仰していて、さまよう思いもありました。文学にのめり込んでからも宗教は心のそばにいつもあります。ゾロアスター教やジャイナ教、ウパニシャッド、原始仏典、惹かれ教えられる宗教にとりまかれています。
 その渦の中で菜食主義についても悩みました。(個人が決断することで、他者がその決断を批判できることがらではあありません)。
 詩集『死と生の交わり』詩「殺す」詩「鎮魂歌―救済のための祈り―同反歌」という、とても苦しい作品があります。込められた心は変わらず私にあります。(リンクしましたのでタイトルからお読みいただけます)。

 私自身は、一つの真理を選び跳び信仰する手前の地でさまよいつつ、こころの真実を文学として表現することを選び、生きています。
 私は菜食主義に共感しつつそうできたらいいと思いつつ選んできませんでした。青春期にそのように悩みはじめるまでに食べ自らの肉体としてきたことは消し去れないとの想いがありました。食物連鎖から逃れられる生き物はいないという想いもあります。

 このような私が菜食主義を貫く方の意思、信仰に畏敬を感じつつ、心に親しく真実を感じるのは、狩猟民族であったアイヌの神謡、アイヌ・ユーカラの世界観、死生観です。
 彼らは他の動物を殺し食べないと生きられないことを知り尽くし感じ尽くしたうえで、その動物たちとともに生きています。動物たちが生かしてくれていると謙虚に感謝し、生かしてくれた熊にもウサギにも鮭にも祈りを捧げます。

 私の心にとっては、人間として生を与えられた生き物のあり方としての真実を感じます。私は、私は私が食べてきた、私を生かしてくれた、すべての動植物そのものだと想い、いまを生きています。

● 以下、出典の引用です

 この地にピュタゴラスという人物がいた。サモスの生まれではあったが、この島とそこの支配者たちをのがれ、圧政を憎んで、進んで亡命者となったのだ。(略)
 獣肉を食膳に供することを非とした最初の人は、このピュタゴラスだったし、はじめてつぎのようなことを語ったのも彼だ。もっとも、彼のこの賢明な言葉は、ひとの信を得るにはいたらなかった。
 「人間たちよ、忌まわしい食べ物によって自分のからだを汚すようなことは、しないことだ! 穀類というものがあり、枝もたわわな果実がある。葡萄の樹には、はちきれそうな葡萄もなっている。生(なま)でもうまい草木もあれば、火を通すことで柔らかくなる野菜もあるのだ。乳もあれば、じゃ香草の花の香にみちた蜂蜜にも、こと欠きはしない。大地は、惜しげもなく、その富と快適な食糧とを供給し、血なまぐさい殺戮によらない食べ物を与えてくれる。獣たちは、肉によって飢えを鎮めるが、しかし、すべてがそうであるというわけではない。たとえば、馬や羊や牛は、草を喰って生きている。ただ、荒くれた兇暴な性質のものだけが、血にまみれた食物を喜ぶのだ。アルメニアの、虎、怒り狂う獅子、狼、熊などがそれだ。ああ、どれほどの罪であろう! 臓腑(ぞうふ)のなかに臓腑をおさめ、肉をつめこむことで貪欲な肉をふとらせるとは! ひとつの生き物が、ほかの動物を殺すことによって生きてゆくとは! こよなく慈悲深い母である『大地』が生みだす、こんなにも豊かな富に囲まれていながら、荒々しい歯で痛ましい肉を噛み裂き、あの『一つ目族(キュクロペス)』の習わしを再現することだけが喜びだというのか? 他の生物を滅ぼすことなしには、飽くなき貪婪な口腹の欲を鎮めることができないというのか?
(略)
 どこかの誰かが、余計にも、獅子たちの食べ物を羨やんで肉をくらい、それを意地きたない腹へ送りこむことを始めたのだ。こうしたことから、罪への道が開かれた。おそらく、最初は、剣が血にまみれてあたたかくなったのは、野獣を殺すことによってであっただろう。そして、それだけならよかったのだ。われわれの生命を奪おうとする動物を殺すことは、道にはずれたことではないとおもう。が、殺すのはよいとしても、食ってもよいというわけではなかった。

● 引用終わり

 今回の最後に、ピュタゴラスやオウィディウスと、木魂する私の詩を響かせます。お読み頂けると嬉しいです。

  詩「青い空のあの白い」(高畑耕治HP『愛のうたの絵ほん』から)


 次回も、この天の川に輝く、わたしの好きな神話の美しい星を見つめます。

 
出典:『変身物語』オウィディウス、中村善也訳、岩波文庫



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