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高畑耕治
高畑耕治

2021年05月09日

「アイヌ神謡集」と「知里幸恵ノート」(2)Pirka(ピリカ)のこと

「アイヌ神謡集」の詩句、「美(イ)い鳥」の彼女のローマ字筆記は、pirka chikappo と記されており、「pirika」の誤植ではないかと、気になっていました。

□参照資料リンク
「知里幸恵ノート」 北海道立図書館所蔵北方資料デジタルライブラリー

北海道立図書館所蔵北方資料デジタルライブラリーの画像7

「銀の滴降る降るまわりに」の冒頭。下から6行目
"Pirka chikappo! kamui chikappo!「美い鳥! 神様の鳥!

彼女の弟の知里真志保(ちりましほ)「アイヌ語入門」北海道出版企画センターを読み、この表記は誤りではなく、幸恵がアイヌの言葉をより正確に文字にするために工夫し考え出した表記法だとわかりました。(この正確さには金田一京助も驚いたとのことです)。
幸恵が記したアイヌ語で「美しい」を意味する言葉「pirka」の、「r」は、日本語の発音の母音の「い」の音を含んだ大文字の「り」の音ではなく、小文字の「り」か「る」、微かな音色で、彼女は耳を澄ませpirkaと聴き、発音したのだと、真志保は著書に記しています。
「アイヌ語には、日本語とちがって、閉音節がふんだんにある。」pirkaは「pirika」ではないと例示としてこの語をあげています。

「アイヌ語入門」知里真志保からその箇所を以下に抜粋します。
音節の尾音-rは直前の母音の音色に従って、ラ、リ、ル、レ、ロ(-ra,-ri,-ru,-re,-ro)にひびく。しかし、語尾の-a,-i,-u,-e,-oはアイヌの意識には存在しないものである。
音節の切り方
子音が二つ続いている時は、その間で切る。
pirka(美しい)→pir-ka
音節はその語の中に含まれている母音の数。
アイヌ語の叙事詩のリズムは、音節の数とアクセントの配列によって構成される。

銀のしずく
降れ降れまわりに

si-ro-ka-ni-pe
ran-ran-pis-kan

シ・ろ・カ・に・ペ
(5音節)
らン・ラン・ぴシ・カン
(4音節)

金のしずく
降れ降れまわりに

kon-ka-ni-pe
ran-ran-pis-kan

こん・カ・に・ペ
(4音節)
らン・ラン・ぴシ・カン
(4音節)
※平仮名にアクセント

という歌を
私は歌いながら

a-ri-an-rek-po
chi-ki-ka-ne

ア・り・アン・れク・ぽ
(5音節)
チ・き・カ・ね
(4音節)

フランス語の「r」もかすれ声のような独特な魅惑的な音色であるように、それぞれの言語の言葉の響きには、こころの息のふるえの魅力があります。
詩や歌謡はその音楽の音色の「pirka」を大切に感じとり、伝えあえるものだと思います。どの言語の詩の響きも、人の肉声、情愛がふるえる美しい音楽だと感じます。




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    Posted by 高畑耕治 at 08:46 │エッセイ