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高畑耕治
高畑耕治

2013年09月03日

種田山頭火と尾崎放哉。俳句と心中し。自由律俳句(六)

 今回からは、自由律俳句を生きざまそのものにして究めた、二人の強烈な個性俳人、種田山頭火尾崎放哉を通して、自由律俳句を見つめます。

 二人について、山下一海氏が出典『俳句の歴史 室町俳諧から戦後俳句まで』に書いている以下の言葉は、二人を深く理解していると感じると同時に、文学・詩歌と作者の生きざまについて、考えさせられます。

 以下、出典●からの引用

  山頭火と放哉 
 「山頭火と放哉は、世を捨てた動機や態度、またそれぞれの資質にかなりの違いがあるが、世を捨てて俳句に自分の心境を映し出し、俳句にささえられながら世を去ったというかたちに共通するものがある。この二人のように、自分の心境をそのまま表そうとするには、口語自由律俳句は、実に適切な詩型であった。この二人は、自分と俳句を完全に一つのものにしてしまうことによって、その作品が人々の心を打つことができた。かれらの俳句は、自分の一生をまるごと引き換えにした成果であったので、当然にそれは、その人一人限りの問題で、それが他に受け継がれるというようなものでもなかった。山頭火と放哉の俳句がこれほど人に詠まれながら、口語自由律俳句自体が定型俳句ほどには世に広まらないところに、口語自由律俳句の問題の根幹があるといえるだろう。」
(引用終わり)。

 「自分の心境をそのまま表そうとするには、口語自由律俳句は、実に適切な詩型」、この言葉はまさにその通りだと言えます。口語自由律俳句は、文学表現の根幹にある、修辞と虚構性を、極限近くまで失くすことを志向する試みだからです。

 「心境をそのまま表そう」とした表現に魅力がありうるとしたら、表現者の「心境」そのもの、その「心境」が生まれ出たその人の生き方そのものが、読者の心を惹きつけ、感動させる何かをもっている以外にありません。

 「かれらの俳句は、自分の一生をまるごと引き換えにした成果であった」、山頭火と放哉それぞれの年譜を詠むとこの言葉に納得します。とても激しい生きぬき、俳句と心中した二人に、私もまた強く惹かれます。
 なぜでしょうか? 二人とも、もうそう生きることしかできなかった、そのように生きることだけが二人にとって自分であることだった、と感じてしまうからだと私は思います。

 次に、に二人が師と仰いだ井泉水が、尾崎放哉(おざき・ほうさい、明治十八年・1885年~大正十五年・1926年、鳥取市生まれ)の死後に編まれた句集に寄せた言葉を引用します。

 放哉は、生前には一冊の句集も刊行していません。亡くなった後、彼の句の本当の価値を世に伝えようとする強い意思が込められた井泉水の言葉は、詩の、俳句の、本質を射抜いていて、感動します。

 以下、出典■からの引用

 「放哉のこと」井泉水
「(略)芭蕉の境地、一茶の風格に就いては今更いふまでもない。然し、それから後、俳句といふものが一概に趣味的な、低徊的なものになつて、作者の人間、その気凛といふものの出てゐるやうな作は殆んどなかつた。所謂「俳趣味」といふ既成の見方からすれば、俳句らしくなくとも、その作者のもつ自然の真純さが出てゐれば、それこそ本当の俳句だ、と私は思ふ。そしてそのやうな本当の俳句を故尾崎放哉君に見出したのである。(略)
 放感君の句には、技巧もなく、所謂、俳趣味もない。彼とて、句作にたづさわつてから二十余年、技巧も知つてをれば趣味も知つてゐる、それを捨てて捨てきつて、かうした句境にないつて来た。恰度、彼が法学士として、或る保険会社の支配人としての社会的の地位を捨ててしまつて、無一物の自然生活にはいつたのと同じ気持なのである。(略)」
(引用終わり)。

 付け加える言葉なく、共感します。最後に放哉の一句を。

  淋しいからだから爪がのび出す

 次回は、尾崎放哉の句の「自然の真純さ」を感じとります。

 出典
 ●『俳句の歴史 室町俳諧から戦後俳句まで』(山下一海・1999年、朝日新聞社)十七.自由律俳句の誕生。 
 ■『現代句集 現代日本文学大系95』(1973年、筑摩書房)




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  • Posted by 高畑耕治 at 00:05