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高畑耕治
高畑耕治

2013年09月07日

尾崎放哉。入れものが無い。自由律俳句(九)

 尾崎放哉(おざき・ほうさい、明治十八年・1885年~大正十五年・1926年、鳥取市生まれ)の自由律俳句を感じとっています。出典から、私の心に特に響いた句を選び、似通うものを感じた句にわけ、◎印の後に私の詩想を記します。

 前回は彼の世界の受けとめかたが伝わってくる句を取り上げました。今回は、世界を感じとろうとする能動性を底流に感じる句です。

2.世界を感じとろうとする働きかけの句
いづれも彼にとっての世界、世界との距離感が響いている句で、働きかけ向かっていく、能動性を感じる句です。

  刈田で鳥の顔をまぢかに見た
◎この句を読むと読者は、自分が「鳥の顔」をすぐ近くで見ている場に置かれ、拡大された「鳥の顔」が眼前に現れます。そのとき感じるのは「生き物のかたち」への驚き、生きていることへの驚きです。その想いを呼び覚ます力を秘めた句と言えます。
 「かりた」と「見た」の「たTA」音、「かりた」と「かお」と「まぢか」の「かKA」音の響きあいが、調べを感じさせます。

  何か求むる心海へ放つ
◎求むる「何か」が何かは作者自身にも言い表せないことが逆に、そのような心情をもつ読者の共感を深める句です。心(こころ)で句が完全に切れ、間が置かれていることで、続く詩句「海へ放つ」が強められ込められた感情が高められています。

  大空のました帽子かぶらず
◎「かぶらず」という詩句に意思を感じます。たたずむ自分の小さな頭の皮膚、頭髪で、まうえの空の大きさに触れ感じていようとする意思。生命感の響きを感じます。
 「ました」で切り、「かぶらず」の文語調に微かな修辞があることで、調べを生み、散文ではない詩歌、句にしています。

  心をまとめる鉛筆とがらす
◎「まとめる」で切ると「心を落ち着かせる」ことと「鉛筆とがらす」ことが並列する時間の対応する行為となり、「鉛筆」まで続けてここで切ると、「とがらす」行為が際立ちます。
 切れ字を捨てた区切りの自由度の高い、自由律詩の散文に近い特徴です。作者がどちらかを意識して詠んだにしても、読者がどう読むかには正解も縛りつけもなくてよいと、私は考えます。

  こんなよい月を一人で見て寝る
◎「一人で」という詩句に、淋しさと、誰かの面影、追憶の響きを、経てきた年月、自分の生き方への感慨を感じる情感の深い句です。ほとんど散文に近く修辞を削ぎ落としたことで、句の生み出す世界が広がるという、自由律詩の逆説的な特徴が表れ出ています。

  雀のあたたかさを握るはなしてやる
◎「握る」で切った後、一文字ずつゆっくりと読む、ひらがなで、「はなしてやる」とゆるめる感覚と込められた想いが響いています。その裏にはたとえば「握る潰す」「握る殺す」というような残虐性が紙一重に潜んでいて意識下にはありながら、そちらを選ばず「握るはなしてやる」、人間性が心に響きます。

  がたぴし戸をあけておそい星空に出る
◎「がたぴし」という音と情景をかもし出す詩句に対する、作者の愛着を感じます。その日常的な卑小性が、続く星空の悠久性を際立たせています。深夜に眠れず星空を見上げに外に出る人は詩心を抱く人、私は好きです。

  眼の前魚がとんで見せる島の夕陽に来て居る
◎魚が跳ねる海の夕陽の情景が美しく浮かびあがります。「魚がとんで見せる」と感じ詠むところに、作者の個性が輝いています。

  入れものが無い両手で受ける
◎作者の深い感慨を感じます。自分はもう何もかも捨て去ってしまって、全くの身一文、このからだ以外何も所有していない、そのように生きてきたという、深い感慨です。ただ心境をそのまま述べた句が、これだけの深みをもちうるのは、彼がそのように生きたからこそ、自由律俳句と心中した人だからこそだと、教えてくれるような句だと思います。

 次回は、尾崎放哉の句、心境そのままの真純な句を感じとります。

 出典『現代句集 現代日本文学大系95』(1973年、筑摩書房)




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 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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  • Posted by 高畑耕治 at 00:05